高齢になると上手に嚥下できなくなります。
原因は、病気や加齢による機能の衰えなどさまざまです。
高齢者の嚥下障害は、ときに生命の危険を伴うこともあり、軽視することはできません。
どうしたら、高齢者の嚥下障害を防ぐことができるのでしょうか
本記事では高齢者の嚥下障害について以下の点を中心にご紹介します。
- 高齢者の嚥下障害の原因とは
- 高齢者の嚥下障害の危険性とは
- 高齢者の嚥下障害の予防方法とは
高齢者の嚥下障害について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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高齢者の嚥下障害とは
嚥下障害とは、口に入れた食べ物が飲み込みにくくなる状態のことです。
高齢者の嚥下障害は、主に食べ物を飲み込む筋肉が衰えることで起こります。
高齢者が嚥下障害になると、栄養不足、窒息、誤嚥性肺炎など命に関わることもあります。
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高齢者の嚥下機能低下はどうして起こるの?
高齢者はなぜ嚥下機能が低下してしまうのでしょうか。
いくつかの原因を紹介しましょう。
加齢によるもの
高齢者は、どうしてもさまざまな機能が低下してきます。
手足の筋力と同じように、噛む、飲み込むといった嚥下にも筋力が必要です。
さらに、咳払いも弱くなります。
咳払いは、のどにたまっている物を吐き出すという重要な働きがあります。
咳払いが上手にできないと、誤嚥や窒息などの危険が増えます。
歯・義歯などの問題
高齢者は、歯にもさまざまなトラブルを抱えるようになります。
歯は、食物を細かく砕いて嚥下を助けます。
しかし、虫歯、歯周病、義歯の不具合などがあると、うまく噛み砕くことができません。
よく噛まずに飲み込んでしまうと、のどに詰まって嚥下障害を起こします。
病気によるもの
病気が原因で嚥下障害が起こることも多くあります。
高齢者でなくても、口内炎や扁桃腺が痛くて飲み込めないという経験は誰でもあります。
また、舌がん、咽頭がん、食道がんなどでも嚥下障害が起こります。
嚥下に直接関わる部位の不具合だけではありません。
脳卒中は脳の障害部位によっては、嚥下障害が起こります。
神経筋疾患であるパーキンソン病は、神経伝達経路や神経と筋肉の連絡が阻害されます。
嚥下に必要な筋力、嚥下反射機能などが低下することによって、誤嚥しやすくなります。
また、認知症が進むと食べこぼし、食事の中断、さらに咳き込むなどの嚥下障害が起こります。
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嚥下障害の症状
嚥下障害は、のどが詰まったり、咳き込んだりするばかりではありません。
さまざまな症状があり、とくに高齢者は自覚症状がないので見守りが大切です。
とくに起こりやすい症状を紹介しましょう。
食事中にむせる
のどは、食物が通る食道と、呼吸のための器官が隣り合っている構造になっています。
そのため、ときどき間違って気管に食物が入りそうになります。
そのときに反射的に空気を勢いよく吐き出して、食物を出そうとします。
これを「むせる」といいます。
嚥下機能が衰えると食事中にむせやすくなります。
飲み物や口の中でまとまりにくいパサついた食べ物でむせることが多くなります。
飲み込めない
嚥下障害が起こるとなかなか飲み込めず、食事に時間がかかることがあります。
歯が抜けてよく噛めない、唾液量が極端に少ないなど、さまざまな原因が考えられます。
よだれが出る
唾液は、1日に1リットル以上も分泌されています。
分泌された唾液は、通常無意識に飲み込まれています。
嚥下機能が衰えると、唾液を飲み込むことが困難となり、口の中にたまってしまいます。
口からこぼれてうまく食べられない
唇をしっかりと閉じることができないと、食べ物を噛んでいるときにこぼれてしまいます。
加齢による口輪筋の衰え、病気による麻痺などが考えられます。
食後に声がかれる
食後に声がかれる状態を「食後嗄声(しょくごさせい)」といいます。
これは、食べ物がうまく飲み込めないため、のどにまだたまっている状態によるものです。
そのままにしておくと、誤嚥の危険性があります。
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嚥下障害が引き起こす危険性
嚥下障害は、ただ飲み込みにくいというだけではありません。
嚥下障害による危険性を認識して、予防に努めましょう。
窒息
嚥下障害で怖いのが窒息です。
口に入れた食べ物が食道に運ばれず、気管に詰まってしまうことで窒息します。
高齢者がお正月にお餅を食べて、窒息してしまう事故は誤嚥によるものです。
食べることへの意欲減退
嚥下障害になると、楽しいはずの食事が苦痛になります。
食べ物を飲み込むのに時間がかかり、食事をするたびに時間がかかり疲れてしまいます。
高齢者は食が細くなる傾向がありますが、嚥下障害でますます食欲が減退します。
栄養不足
嚥下障害で食べることが億劫になってくると、食べやすいものばかりを選びます。
その結果、柔らかくのど越しのいいものばかりを好み、栄養不足になります。
柔らかいものばかり食べていると、ますます筋力が衰えてしまいます。
脱水症状
嚥下障害では固形物よりも液体の方が早くのどを通るため、むせやすくなります。
そのため、無意識に食事中の水分を敬遠してしまいます。
気が付いたら脱水症状を起こしていたということも珍しくありません。
誤嚥性肺炎
口の中には、さまざまな細菌が存在しています。
誤嚥によって唾液や食べ物に付着した細菌が肺の中に入ると、肺炎を起こすことがあります。
食事中だけでなく、寝ていても唾液が気管に流れ込むこともあります。
普段から、口腔内を清潔に保つことが誤嚥性肺炎の予防に重要になります。
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高齢者の嚥下の工程
嚥下には、さまざまな工程が組み合わさって行われています。
どこかの段階で障害が起こることで、嚥下障害となります。
高齢者の誤嚥は、どのようにして起こるのでしょう。
口腔期
食べ物は口の中で、一時的に噛み砕かれます。
噛み砕かれた食べ物は、舌によって上顎の奥に押し付けられ咽頭へと送り込まれます。
飲み込む瞬間に唇がしっかりと閉じていることで、飲み込む力が出ます。
口腔期は、自分の意識でコントロールできる段階です。
口に入ったものが飲み込むには大きすぎる場合など、半分に分けるなど調整をします。
咽頭期
食べたものが咽頭から食道へと運ばれます。
このとき、以下の3つの方法によって気道を封鎖し、食べ物を食道に誘導します。
- 食べ物が鼻に逆流しないように鼻腔と口腔にある軟口蓋で閉鎖
- 喉頭が上がって声門を閉鎖
- 喉頭蓋が下がって、気管の入り口を閉鎖
この一連の動きを「嚥下反射」といいます。
この嚥下反射がうまく連動しないと、誤嚥性肺炎を起こすことがあります。
食道期
食べ物を食道の筋肉による蠕動運動で胃まで運びます。
食道の蠕動運動の速度は毎秒4㎝ほどです。
しかし、どこかに障害が起こると、食べ物がつかえるなどして、うまく落ちません。
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高齢者の嚥下障害の治療方法
嚥下障害になったときの治療方法にはどのようなものがあるのでしょう。
治療方法には「保存的治療」と「外科的治療」があります。
一般的に、高齢者の場合には保存的治療が行われます。
保存的治療
保存的治療とは、いわゆるリハビリテーションのことです。
高齢者は、嚥下のための筋力が衰えていることがほとんどです。
そのため、医師・言語聴覚士・理学療法士などの指導もとでリハビリを行います。
外科的治療
リハビリの効果があまり出ず、重度の誤嚥を繰り返す場合には、外科的治療も考えます。
外科的治療は「嚥下機能改善手術」「誤嚥防止手術」「気管切開術」があります。
誤嚥機能の改善を目指すのか、誤嚥を防止するのか、気道を確保するのかで選択されます。
嚥下障害の状態によって医師の判断が必要となります。
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リハビリによる嚥下機能低下の改善方法
高齢者の嚥下障害では、リハビリが主になります。
リハビリには「間接訓練」と「直接訓練」があります。
それぞれ詳しくみていきましょう。
間接訓練
間接訓練とは、食べ物を使わずに舌や口のトレーニングをすることです。
トレーニングを続けることで、咀嚼力・嚥下機能を向上させます。
自宅で行うときには、食事前に行うとより効果的です。
唇・舌・頬のトレーニング
普段あまり動かさない唇・舌・頬の筋肉を鍛えます。
舌をできるだけ長く出したり、頬を膨らませたりして、口腔まわりの筋肉を鍛えます。
発声トレーニング
声を出すときには「パ行」「ラ行」「タ行」「カ行」「マ行」を繰り返し発音します。
食べ物を飲み込むときと同じ動きになるためです。
ゆっくりと一文字ずつ発音しましょう。
唇、舌、喉などの嚥下に必要な筋肉を鍛えます。
首・肩周りのストレッチ
首や肩周りの筋肉が凝っていると、嚥下しにくくなります。
首や肩を回したり、上半身のストレッチをして筋肉を緩めます。
口腔感覚向上トレーニング
口腔内の感覚を呼び覚ますトレーニングです。
舌先で唇の裏側の筋肉を押しながら、一周させます。
また、氷を含んでアイスマッサージをするとほどよく刺激が行き渡ります。
呼吸に関わる筋肉の強化
嚥下障害で気管に飲み物や食べ物、痰などが入ってしまうと窒息の危険があります。
すぐに排出できるようにしっかり咳をすることが大切です。
横隔膜などの呼吸に関係する筋肉を強化する呼吸機能トレーニングをします。
腹式呼吸を意識しながら、深呼吸を1日に10~30回行います。
正しい姿勢の維持
食べるときに姿勢が悪くなると、食べ物の通り道が曲がるなどして適正に確保できません。
高齢者は、背筋や腹筋が弱くなっており、同じ姿勢を維持するのが困難になります。
食事がしやすい姿勢が20~30分程度維持できるようにトレーニングします。
直接訓練
直接訓練は、実際にものを食べながらのリハビリになります。
柔らかいものから硬いものへと徐々に段階を踏みながら、食べ方を工夫していきます。
食事形態の調整
食べる能力に応じて「ゼリー状」「ペースト状」「ゼラチン寄せ」などから始めます。
誤嚥を最小限にするための訓練をしながら、普通食へと近づけていきます。
複数回の嚥下訓練
ひと口飲み込んだあとに、複数回唾液を飲み込む訓練です。
このような習慣を身につけることで、咽頭に残った食べカスも飲み込むことができます。
形状の異なる食べ物の嚥下訓練
固形物を食べたあとに、飲み物やゼリーなど形状の違う食べ物を嚥下する訓練です。
形状の違う食べ物を交互に摂取し嚥下することで、対応力がアップします。
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高齢者の嚥下機能低下の予防方法
高齢者の嚥下機能低下を予防するためには、食事で気を付けたいポイントがあります。
本人ではわからないこともあるので、家族の見守りが大切になります。
嚥下障害のレベルに合わせた食事形態
嚥下レベルに合わせて、飲み込みやすい形状に調理したものを嚥下食といいます。
柔らかくしただけでは飲み込むのが難しい場合には、ゼリー状、ペースト状にします。
家庭内で毎日嚥下食を作るのは、難しいこともあるのが実情です。
必要であれば、介護施設、在宅介護サービスで食事サービスを利用するとよいでしょう。
食事を摂るときの姿勢と環境
正しい姿勢で食事をすることは、嚥下障害の予防になります。
できるだけ垂直に座って、背筋が伸びるように椅子やテーブルの位置を調整します。
飲み込むときには顎を引いて飲み込むようにしましょう。
気が散ると飲み込むという動作に集中できなくなり、誤嚥を起こしやすくなります。
食事をするときにはテレビを消すなど、環境を整えましょう。
食べ方の工夫
一回に口に入れる量が多いと誤嚥につながります。
飲み込みやすいように調整します。
とくに水分の多いものは、むせやすいので少なめに口に運ぶようにしましょう。
よく噛むことを習慣にして、口の中が完全に空になってから次を入れるようにします。
また急いで食べると、嚥下障害を起こしやすくなります。
時間をかけてゆっくりと食べられるように配慮しましょう。
口腔内を清潔に保つ
口腔内をできるだけ清潔に保つことは非常に重要なことです。
口の中が汚れていると、歯周病や虫歯の原因になります。
さらに、誤嚥によって細菌が肺の中に入って誤嚥性肺炎を引き起こす危険があります。
とくに、睡眠中に唾液を誤嚥することで誤嚥性肺炎になることが少なくありません。
無意識下でのことなので、口腔内を清潔にするしか予防策はありません。
飲み込むことが上手にできなくなることを嚥下障害といいます。嚥下障害は、食事がしにくくなるだけでなく、窒息など命の危険もあります。嚥下障害は、予防することができるのでしょうか。本記事では嚥下障害の予防について以下の点を中心にご[…]
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8020運動について
8020(ハチ・マル・ニイ・マル)運動とは、80歳になっても自分の歯を20本以上保つことを目的としています。
日本歯科医師会の啓発運動のスローガンです。
食事を楽しみながら健康的な生活を送るためには、健康な歯を維持することが重要です。
口腔内を清潔に保つことで嚥下障害を防ぎ、誤嚥性肺炎も予防することができます。
また、咀嚼することで脳に刺激が与えられ、認知症予防にもなります。
高齢者で歯の数が20本未満で、咀嚼力が落ちてしまった場合、要介護リスクが約2.3倍になります。
さらに、死亡リスクも約2倍と跳ね上がります。
このことからも、歯を大切に残すことが大切だということがわかります。
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歯周病予防の大切さについて
8020運動の成果もあって、高齢者の残った歯の数も年々増えてきました。
一方で、歯周病に悩む高齢者が増えています。
歯周病は歯と歯茎の間に細菌が繁殖し、炎症を起こします。
そのまま放置しておくと、歯を支える骨が溶けて、歯がぐらついたり抜けたりします。
歯周病の怖いところは、炎症物質や歯周病菌が血管を通って全身に巡ることです。
肺炎、脳血管疾患、糖尿病といったさまざまな病気を誘発します。
歯周病がアルツハイマー型認知症にも関与していることもわかっています。
歯周病予防のために毎日のケアはもちろん、定期的に歯医者でチェックしましょう。
高齢者の嚥下障害は何科を受診するの?
嚥下障害かなと思ったら何科を受診したらよいのでしょうか。
高齢者の場合には、まずかかりつけの医師に相談しましょう。
嚥下障害の受診は、
- 耳鼻咽喉科
- リハビリテーション科
- 精神内科
- 消化器科
- 歯科
- 歯科口腔外科
となっており、言語聴覚士など嚥下障害の専門職がいる病院もあります。
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嚥下障害の原因疾患の割合
嚥下障害の原因となる疾患は
- 1位 脳梗塞
- 2位 脳出血
- 3位 くも膜下出血
- 4位 パーキンソン病
- 5位 アルツハイマー病
となっており、脳血管疾患によるものが全体の60%を占めています。
このことにより、脳卒中の後遺症が嚥下障害の大きな原因になっていることがわかります。
また、肺炎を発症した人の年齢をみてみると、75歳以上の高齢者が69%となっています。
さらに高齢者の肺炎のうち、70%以上が誤嚥性肺炎が原因となっています。
このことからも、嚥下障害は早めの予防と対策が必要であることがわかります。
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高齢者の嚥下障害のまとめ
ここでは、高齢者の嚥下障害について紹介してきました。
要点を以下にまとめます。
- 高齢者の嚥下障害の原因は加齢、歯具合、病気によるもの
- 高齢者の嚥下障害の危険性は窒息、食欲減退、栄養不足、誤嚥性肺炎
- 高齢者の嚥下障害の予防方法は、状態に合わせた食事形態、姿勢、食べ方など
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。