老人ホームを探していれば、入居金は気になる情報の一つです。
入居金について理解をせずに契約をしてしまうと、後々のトラブルにつながりかねません。
この記事では、入居金に関する以下の項目について解説します。
- 入居金の概要
- 退居時の入居金の返金
- 入居金がない場合のメリットとデメリット
入居金を支払う場合、支払わない場合それぞれの金銭面での損得についても整理しています。
ぜひ最後までお読みください。
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入居金が老人ホーム特有のシステム?
ここでは、有料老人ホームにおける入居金について解説します。
老人ホームとは?
まず、有料老人ホームの法律上の定義について説明します。
老人福祉法の第29条第1項で、有料老人ホームは老人に対して「介護サービス等」と「入居サービス」を提供する施設として定義されています。
「介護サービス等」の中身は以下の通りです。
- 入浴、排せつまたは食事の介護
- 食事の提供
- 洗濯、掃除等の家事
- 健康管理
有料老人ホームでは、上記4項目のうち少なくとも1つのサービスを提供しています。
「入居サービス」について、有料老人ホームの定義では入居人数の多寡による基準は設けられておりません。
1人以上の入居で有料老人ホームとしての要件を満たします。
有料老人ホームは、特別養護老人ホームとは異なり、民間企業が参入できます。
また特別養護老人ホームでは、身体上や精神上の著しい障害があり、常時の介護を必要とする者を入所させる場合があります。
しかし有料老人ホームでは、このような措置による入所はありません。
入居は事業者と入居者との契約で決まります。
老人ホームにかかる費用は?
老人ホームでかかる費用の内訳の例は以下の通りです。
- 施設介護サービス費
- 居住費
- 食費
- 管理費
- サービス加算
- 日常生活費
これらすべて含めた老人ホームにかかる月額の相場は約20万円です。
入居金とは?
入居金は入居する際に一定期間の家賃を前払いするものです。
終身にわたる契約でも、想定居住期間を設定して前払金を設定することが可能になっています。
なお入居金の受領は有料老人ホームにのみ認められています。
特養や介護医療院のような公的施設では、入居金を受け取ることは認められていません。
入居金の計算式
有料老人ホームの設置運営標準指導指針では、入居金の計算式について以下のように定められています。
- 1年契約など期間が決められている契約の場合:(1ヶ月分の家賃又はサービス費用)×(契約期間の月数)
- 終身の契約の場合:(1ヶ月分の家賃又はサービス費用)×(想定居住期間の月数)+(想定居住期間を超えて契約が継続する場合に備えて受領する額)
入居金の支払い方式
費用の支払い方法は事業者側が多様に設定できます。
前払いとはせずに、家賃やサービス費用を毎月支払っていく月払い方式もあります。
入居金は契約に基づいて支払うことになります。
入居を検討する際には、費用の支払い方法について理解をしてから契約することが必要です。
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入居金が返金されることも?
入居金は先ほども述べた通り、施設に預けるお金です。
退去の際に返金される場合もあります。
詳しく解説していきます。
償却とは?
入居者が事業者に預けたお金(入居金)から差し引いて事業者側の取り分とすることを償却と言います。
一定期間分の家賃を前払いした場合を例としますが、入居が開始されれば、家賃はその入居金から充当して支払っていきます。
入居金から差し引いて事業者側の取り分とし、入居者の家賃にあてるという構図になっています。
入居期間が長くなれば、それに伴い償却残高、すなわち入居金からの差し引き残高は多くなります。
未償却分の入居金は、入居者側からの預かり金の扱いで、事業者側に返済義務があります。
初期償却
老人ホームのなかに、入居時点で入居金の一定割合を事業者側の取り分として償却するところもあります。
これを初期償却と言います。
初期償却分は基本的には入居者への返還の対象にはなりません。
償却期間
償却期間はどれくらい時間をかけて入居金の全額を事業者側の取り分にしていくかについて設定した期間です。
通常は、2年契約など期間を決めた契約であれば、その期間が償却期間となります。
2年分の家賃を前払いして、2年かけて償却していく形式になります。
終身契約であれば、平均余命などを参考にして設定した想定居住期間が償却期間となり、その期間をかけて償却していきます。
初期償却や償却期間については事業者側が設定します。
入居金に関しては、算定根拠を書面で明示することが求められます。
入居金の返還額は、入居契約の際に契約書に明示し、入居者に対して十分に説明しなければなりません。
償却方法は何がある?
償却方法は大きく分けて定額償却と定率償却の2通りがあります。
定額償却
定額償却は償却期間内の月ごとに一定の金額ずつ均等に償却していく方法です。
例えば5年の償却期間が設定されていれば、入居金を60カ月で割った値を各月に償却していくことになります。
初期償却がある場合は、入居金から初期償却を差し引いた後の残額を60カ月で割った値を各月に償却していきます。
定率償却
定率償却は一定の割合で償却していく方法です。
例えば500万円の入居金を2割で償却していく場合、1回目は100万円(500万円×0.2)の償却となります。
100万円が差し引かれて入居金の残額は400万円になります。
その次は80万円(400万円×0.2)の償却となります。
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入居金なしの施設も存在する?
費用の支払い方法は事業者側が多様に設定できると先ほど説明しました。
入居金をもらわないという設定も可能です。
すなわち入居金0円の有料老人ホームもあります。
ここでは入居金がない場合のメリット、デメリットについて解説します。
入居金がない場合のメリット
入居金がない場合は入居時にまとまったお金を用意する必要がないというメリットがあります。
また、入居金がない場合、初期償却による損失を考慮しなくてよいという点もメリットです。
初期償却が設定されている場合は、入居時点で初期償却分は老人ホーム側の取り分となります。
入居者には戻ってこないお金になります。
短期間だけの入居になった場合、その利用期間の費用以外に初期償却分の支払いは非常に損となります。
入居金がない場合のデメリット
入居金がない場合に損になるのは想定居住期間を越えて住み続ける場合です。
月額の支払いがもともと高額なうえ、想定居住期間を越えても、その高額の月額費用を継続して支払い続けることになるので損になります。
入居金トラブルには注意を
続いて入居金関連のトラブルについて解説します。
どういったトラブルがある?
トラブルに関する具体例を挙げると以下の通りです。
- 入居後すぐに退去せざるを得なくなり解約したが、入居金が返還されない
- 入居している有料老人ホームが経営悪化で倒産したため入居金が返還されない
- 入居金が返還されても初期償却費の設定が高く、事業者側の取り分が多額で、入居者にはわずかしか戻ってこない
返還金の設定は事業者側(老人ホーム側)が行います。
契約段階での説明が不十分な場合、退去時に入居者側と事業者側の間で食い違いが生まれ、トラブルにつながるケースもあります。
入居金トラブルにあってしまったら
入居金トラブルを減らすための施策として、平成24年4月施行の改正老人福祉法で短期解約特例制度(クーリングオフ制度)の規定ができました。
入居後90日間であれば、退居の理由を問わずクーリングオフを利用することができ、入居一時金(初期償却分を含めて)は全額返還されることとなりました。
この場合も利用した日数分の家賃等は日割計算により算出して支払います。
しかしクーリングオフの場合にも注意が必要です。
全額返還として説明された場合でも、一定の居住費が差し引かれて返還される場合もあります。
入居の際に必ず確認しましょう。
トラブルを未然に防ぐために
トラブルを未然に防ぐためには、契約時に入居金や返還金の内容を理解することが重要です。
初期償却の割合、償却期間、退居時の返還額の算出法等を理解して、納得したうえで契約をするのが望ましいです。
法改正で保全措置が適応されるように?
保全措置は2006年度から開始した、利用者保護のために設けられた制度です。
有料老人ホームが倒産しても、入居金の未償却分(最大500万円)を返還することを目的とした制度です。
2017年の老人福祉法改正で、2006年以前に設置された有料老人ホームにも適用されることになりました。
3年間の経過措置を経て、2021年4月からはすべての有料老人ホームで前払金(入居金)の保全措置が義務化されています。
入居金に相続税や贈与税がかかる?
結論から申し上げますと、入居金の未償却分は相続税・贈与税の対象となる場合があります。
まず、相続税について説明します。
入居者本人が入居金を負担して、入居金の償却が完了せずに死亡した場合(入居する人と入居金を負担する人が同一の場合)を考えましょう。
この場合、入居者が生存していれば、返還金は入居者に返還すべきという性質のものです。
よって返還される入居金は、入居者に帰属する財産を、死亡時に指定受取人に相続させたと考えます。
なので、相続税の対象になります。
次に贈与税について説明します。
贈与税は入居者と、入居金を負担した者が別の場合に考える必要が出てきます。
妻が有料老人ホームに入居するに際して必要な入居金を夫が負担したケースなどです。
この場合、妻が支払うべき入居金を夫が贈与したという理屈が成り立ちます。
結局入居金は支払うべき?
入居金を支払うか否かの判断は、利用期間を基準に考えると良いでしょう。
既に説明したとおり、入居金が設定している想定居住期間より長く入居することになった場合は入居金を支払っていた方が得です。
入居金を払っているので、月額の支払いはそもそも抑制されていますが、決めた期間を越えて入居が継続した場合は家賃を支払わなくてもよいので総額としても得になります。
逆に他の老人ホームへの移動の可能性もある一時的な利用であるならば、入居金なしの支払いを選ぶ方が良いでしょう。
月々の支払いは高くなりますが、期間限定なため総額の見込みは立ちます。
老人ホームと入居金のまとめ
今回は老人ホームと入居金について説明してきました。
この記事の要点を以下にまとめます。
- 入居金は一定期間分の家賃やサービス費用の全部、または一部を前払金として入居時に一括で支払うもので、有料老人ホーム特有の支払い方法である
- 入居金は入居者側から事業者側への預かり金という位置づけで、初期償却分・各月の家賃・サービスの費用に充当するため償却する分を除いては、事業者側は入居者側に返還する義務がある
- 入居金がない場合のメリットは、入居時にまとまったお金を用意する必要がない点、デメリットは月額の支払いが高額になるうえ、居住期間を越えて入居を継続した場合も、その高額の月額費用を支払い続けることになる点
これらの情報が少しでも皆様にお役に立てば幸いです。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。