最近、お風呂の回数が減ってきた、お風呂に入るのがおっくうになってきた。それは、体力の衰えを知らせるサインかも知れません。また、着替えなど、他の身だしなみ動作の習慣も変わっていく契機となる場合もあります。実際、要介護認定に係る訪問調査では、洗身は比較的早い段階で介助を要する項目としてチェックされていることが多いのです。
毎日入浴する高齢者は要介護リスクが3割減少するという研究(八木明男、他:千葉大学大学院社会予防医学)がありますが、大変うなずけます。
全身の衣服の脱ぎ着、段差のある風呂場への出入り、洗髪や背中洗い、浴槽への出入りと、ざっと上げただけでもかなりの運動量(関節や筋肉の働き、バランスなど)です。さらにシャワーの温度調節や、石鹸などをくまなく体にこすりつける、そして残さず洗い流す動作には感覚や認知機能も使われます。そして鏡に映る自分の顔や体と、嫌でも向き合わなければなりません。
そう考えますと、入浴するだけで、ちょっとした体操かそれ以上の効果があるのだろうと思います。毎日とはいかないまでも、お風呂の習慣を維持していくことは、健康にとって大切なものと言えそうです。
しかし体は正直です、お風呂がおっくうになるとは、単純にお風呂が嫌いになったとか、不潔になったとかではなく、お風呂にまつわる多くの動作のうち、本人にも気づかない何らかのやりにくさ、恐ろしさ、不快な感じが隠れている可能性があります。
したがって、お風呂がおっくうになった方に対して強引に入浴させるのは、もちろん正しい対処ではありませんし、訪問入浴やデイサービスなどで入れてもらえれば良いと考えるのも早計です。
脱衣所や浴室が寒いだけでも足が遠のきますし、滑りやすい環境での動作は必要以上に緊張し疲れます。つま先洗いや洗髪の際にかがむ動作は意外にも恐ろしいものです。
本人の動作を観察してみるとの苦手なところが見えてきますから、介助が必要なのか、環境を整えれば良いのか、何か福祉用具で解決しそうか、遠慮なく地域包括支援センターなどに相談してみて下さい。
お風呂からあがった後にスッキリ、さっぱりするのは、「お風呂は重労働」だからなのでしょう。重労働を終えて、一杯のビールか、コーヒー牛乳か、はたまたスキンケアか、お風呂の習慣を維持していくために、人それぞれの楽しみも忘れずにいたいものです。
参考図書
Akio Yagi, Shinya Hayasaka, Toshiyuki Ojima, Yuri Sasaki, Taishi Tsuji, Yasuhiro Miyaguni, Yuiko Nagamine, Takao Namiki, Katsunori Kondo:Bathing Frequency and Onset of Functional Disability Among Japanese Older Adults: A Prospective 3-Year Cohort Study From the JAGES. Journal of Epidemiology、Vol. 29 (2019), No. 12 pp. 451-456