介護の様子を撮影した映像を見直すと、そこからたくさんの大切な気づきを得られることがあります。例えば、同じ利用者さんに対する同じ動作の介助場面であっても、利用者さん自らよく動かれているときと、介護者に身を任せてしまっているときがあります。体調の違いと言ってしまえばそれまでですが、そうでは無い要因もありそうです。
利用者さんが自分からよく動かれているとき、介護者は利用者さんと少しだけ距離をとって対応を開始し、二人の間に隙間が保たれています。一方で、介護者に身を任せている場面では、介護者は早々に利用者さんとの距離を詰めていき、すぐに二人の間の隙間は埋められます。
パーソナルスペースという言葉がありますが、“他者が自分に近づいて不快に感じない限界範囲”だそうです。つまり、他者と空間を共有するときに自分にとって居心地の良い空間、言い換えれば自由に振る舞うことのできる空間とも言えそうです。
したがって、利用者さん自らよく動かれている場面では、介護者は無意識に利用者さんと距離をとって対応していたのだと思います。しかし、安全な介助を行うためには、利用者さんのパーソナルスペースに踏み込まなければなりませんから、利用者さんの自由は犠牲にならざるを得ません。
介護は利用者さんの自由を奪いつつ、利用者さんに自由になっていただきたい。この矛盾との戦いが常に生じているという非常に悩ましい実態があるのです。
介護が必要になった方の本当の能力を知り、少しでも自由に自ら動いていただくためには、その方との隙間を大切にすることです。動けない、動かないのではなく、動くための隙間を感じられていないのではないかと理解してみてはどうでしょうか。
他人が接近するだけで緊張して固まってしまうように、すっぽりと寝袋に収まると身動きは取れないように、隙間は心理的にも物理的にも動くために必要な要素です。つまり隙間を作るとは、心理的にも物理的にも動くための準備を整えて差し上げる重要な介護技術です。
相手の距離で介助する、そう自覚すれば相手が主体の態度が無意識に表れるようです。利用者が自らよく動かれている映像は、介護者から利用者へ「さあ、どうぞ」と、そんな言葉が聞こえてきそうな様子が伝わってきます。