度々お邪魔させていただく施設で、いつもお会いするイサムさんという入居者の方がおられます。ときに玄関で、廊下で、はたまたリビングや食堂でお会いします。それは、同じ人が何人も存在するのかと思わせる程の頻度なのです。
最初はよくお見かけする方くらいにしか思っていませんでしたが、改めて何年もの経過を考えると、最近お会いした際の変わらぬ姿に驚きを覚えたものです。
イサムさんは車椅子で生活されていますが、施設内を自由に自走し移動することが可能な方です。施設の玄関では訪れる来客に声をかけていらっしゃいます。廊下では施設の職員と会話し、時には居室に連れ戻されていたりします。
リビングや食堂では他の入居者とも交流されます。“自由に”“移動する”とは、いかに健康にとって重要なことかと気づかされる経験です。“自由に”“移動する”と、単純に運動機能を使うだではなく、人や変わる景色など様々な刺激に出会うことができます。
また、出会う場と人の分だけコミュニケーションの多様性も増すのでしょう。つまり、生活空間の広さと健康度合いには何らかの関係があると言えそうです。
施設で車椅子を使用している方に、車椅子を自分で操作して移動しませんか?と声をかけると、「やったことがない」と返答される場合も多いです。“やったことがない”と“できない”は全く違うことですから、「自分で操作してみませんか?」と一度でもお誘いしてみると良いと思います。
もし、少しでも自分で移動する機会や量が増えれば、生活が変化するきっかけになるかも知れません。車椅子を押してもらうことで目に入る景色と、自分で移動して得られる景色に変化は違うからです。
移動によって運動機能だけではなく認知機能も刺激され、それが言葉や表情の変化となって表れます。そして、移動している人には周囲も関心が向かいやすいため、「どちらへ行かれるのですか?」など本人に対するコミュニケーションも増えることになり、ますます運動にも認知機能にも良い循環が生じやすくなるのです。
よくお見かけする人とはコミュニケーションの機会が多い。言ってみれば当たり前ですが、こちらからお会いしに行くと同時に、車椅子を使用されている方からも移動して出会いのチャンスを広げていただく、生活空間を広げていただく。
そんな発想で関わらせていただくと良いのではないでしょうか。