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心模様を知り、読み解き、そしてその模様に合った策を描く

オムツするくらいなら死んだほうがまし

脳血管性疾患で入院した後、老人保健施設という介護施設に入所したガンさん(仮名)は、身体にマヒが残り歩行が不自由になりましたが、認知症の状態までには至りませんでした。

 

ガンさんは配偶者と二人暮らしで、その配偶者から施設職員に「排せつの失敗で家の中を汚されるのは嫌だから出るときはオムツを着用するように仕向けてください」と要望が出されました。

 

ガンさんと同居する家族の意向であり、家族抜きではガンさんの生活が成り立ちませんので、家族の意に添ってすすめるしかないと判断した職員たちですが、内心「尿意はしっかりあるし、オムツはねェ~」と思ってはいました。

でも、打つ手立てが見いだせず、ガンさんに「自宅に戻って困らないようにオムツ等をつけさせていただきますね」と伝えました。

 

するとガンさんは「イヤだ、オムツするくらいなら死んだほうがましだ」と強く拒まれました。

 

職員たちは「オムツ着用を嫌がるガンさん」と「オムツ着用を願う配偶者」との間で苦悩しましたが、それでも解決策を見いだせず苦肉の策として「ガンさん、男性用のパッドというものがあるので、これにしましょう」とモノを変えて提案しました。ガンさんも配偶者に気を使って渋々受け入れて退所となりました。

 

ガンさんを変えてしまったガンさんの心模様

退所してからガンさんは通所施設を利用することになりましたが、自宅では配偶者に対して、通所施設では職員や他の利用者にまで粗暴な言動を繰り返すようになりました。

配偶者からは「もう大変。もう一度入所させて欲しい」との申し出があり、すぐに入所となりましたが、以前のガンさんとは別人のように人が変わってしまったという話から相談を受けました。

 

僕なりに「どうするか」を考えてみました

老人保健施設には療法士が配置されています。

ガンさんが自宅に戻るにあたって、療法士を伴ってガンさんと一緒に自宅に行かせていただきます。

ガンさんには、寝る場所や普段の居場所からトイレで排せつするところまでの動作を行ってもらい、一連の動作を療法士に見てもらいます。合わせて、よりトイレに近い部屋があるかどうかも確認します。

 

ベッドや椅子からの起き上がり・立ち上がり・就寝に向けた動作確認。部屋の扉の開け閉めはできるかどうか。トイレまでの歩行状態。トイレの扉の開け閉め。便座への着座、着座姿勢、便座からの立ち上がり、身体の回転動作、衣服の上げ下げ、ペーパーホルダーが使えるかどうか、またその行為の所要時間などガンさんに実際に行動してもらって、
自力でトイレにて排せつすることのどこに課題があるか、その課題を解決するために何が必要か・どうすれば解決できるか、老人保健施設入所中にすべき訓練は何かを見出してもらいます。

必要なら自宅で繰り返し訓練をすることまでガンさんに提案し、ガンさんが願う「オムツを使用しないために」を一緒に追求します。

 

そこまでやってなお、自宅に戻ってからの排せつ行動で何をどうしてもトイレまでもたず漏らしてしまうということがあるなら、それを踏まえた上でガンさんにパッドであれ、オムツであれ、自助する道具を使うようにすすめてみるかなと思いましたし、そこまでいけばガンさんの出方も違うのではないかと思いましたので、それを伝えました。

 

またその上で、この話をしてくれた方に「よく考えてみたらわかるけど、配偶者が望んでいるのはオムツ等の着用ではなく、汚してほしくないってことやろ」「死んだ方がましだとまで言うガンさんに何も挑ませないでオムツ等を着用したら、ガンさんにしてみたら、家族や僕らがあんたは死んでもいいというメッセージを送っているのと同じやんか、そりゃ自暴自棄になってもおかしくないわなぁ」ともお伝えしました。

 

でも、どう思おうがどう考えようが過去の話で取り返しがつきません。

 

そこで、「今、しなければならないことは、まずはガンさんの心模様を知ること。知ろうとする姿勢を感じてもらうことやから夜間寝静まったときに、夜勤者がガンさんとゆっくり話してみたらどうや。A職員には話さないけど、B職員、C職員なら話してくれるかもしれんから、一度うまくいかなくても止めないで、ガンさんと二人きりの時間をとってみてはどうやろか」と提案しました。

 

さっそく、職員たちはその日の夜勤者から世間話をしながらガンさんの心模様を探りにいくことを始めたのですがなかなか模様を見せてくれません。

そんなある日、ある職員に「どうせみんな、俺なんか死んでもいいと思っているんだろ」と心の模様を言葉にしてくれました。

 

わたし、おかしい?

あるとき、献身的に義父の介護にあたっているお嫁さんから「和田さん、誰もいないところで私の話を聞いてくれますか」と言われたので「いいよ」と二人きりになる時間をつくりました。

 

「この話を誰かにして吐き出したいのですが、夫は無論、誰にも言えないので和田さんに聞いてもらうことにしたの。義父はものすごく優しい人なんですが、時折、とても振る舞いが荒れ、声も荒げるんです。どうしたいのか、どうしてあげたらいいのか皆目見当がつかず右往左往するばかりでしたが、ある時思い切って義父の性器を触ってあげたんです。そしたらきつい言動がなくなり普段のやさしい義父に。わたし、おかしいでしょうか」

 

「あなたはすごいね。実父であれ義父であれ、そこまで心模様を読み取って試みて、何とかいつもの優しさを取り戻してあげたいって思えないよ。家族ならではやね」

 

「違うの。私は、元気なころの義父にものすごくよくしてもらい、夫や子供たちとの幸せな家庭生活を続けてこられたから恩返しのつもりなんです。でも、いき過ぎていませんか」

 

「全然、大丈夫やと思うで、家族やから。ただ、棺桶までもっていく話ではありますがね」

 

お嫁さんは、最期の看取りまで自宅で義父の傍に居て支援し続けられました。

もちろん最後まで「なぜ、そのようにしようと思ったのか」は聞きませんでしたがね。

 

心模様を知り・読み解き・策を描く

人には心に模様があると僕は思っています。

その模様は誰に対してもいつでもオープンにしているわけではなく、僕の仕事においては僕の方から心模様を知り・読み解いていくことが不可欠なことだと思っていますが、読み取るだけではダメで、その模様に合った模様の策が必要です。

 

しかも策にも限度があって、その限度は僕ら職業人と家族では違ってきますが、これは致し方ないコトと割り切ってもいます。こうかもしれない、こうすることがベターな策かもしれないと思えても職業人としては「できないことだらけ」ですからね。家族になら思い切った策の提案ができても、僕にできることは「添い寝」くらいまででしょうか。

 

夜勤に就いていたあるとき、部屋の様子を巡回して見て回ると布団の中に入っていたトメさん(仮名 認知症の状態にある方)から「いらっしゃい」って布団をまくって手招きされましたが、小指を立てて小声で「今日はダメ、いるから」って伝えたら「まぁ」ってひとこと吐かれて眠りに就かれました。

僕的言い方で「瞬発的支援策」っていうやつですが、これを家族に話せても介護計画書に落とし込めないですからね。

 

僕は、いつも「描けた策」と「職業人としての限度」の狭間でどこに着地するかを探りますが、わかりやすくガマンという言い方にしますが、その限界点が僕よりも低い家族等からのご相談に応じられるようにするために「描き」に限度は設けないようにすることも意識して大事にしています。

 

「描き」は僕の宝物ですが、要介護状態にある方々への直接支援職から離れて時間が経ってきたので「描き」の質も量もぐーんと下がってきたように思います。これは、しょうがないですよね。

 

追伸

いよいよ訪問系の事業に海外人材が従事できるようになりそうですが、ここにだけに頼ろうとしない抜本的な施策を望むばかりですが、それとて僕の頭では打つ手が描き切れません。

しかも、労働力の不足は介護業界だけの話ではなく、飲食も同様のようで有名なホテル等の厨房には海外からの方々がけっこういらっしゃり、その方々のおかげで業が成り立っているという話も聞きますから、この国は構造的に大改革をしないと追い付かないのかもしれませんね。

生まれてきた子供の数も最低数になり、毎年100万人ずつ人口が減っているようですから、僕の子供たちが後期高齢者になる2100年頃22世紀にはどうなっていることやら。地面の上も下も我が国は高齢化が進んできていますから。

そこまで頑張って生きてみるかぁ!(ちなみに僕は2100年145歳になりますがね)

 

ネパールの日本語学校で見た「日本に関する事実」と書かれた掲示板
これは、ネパールの日本語学校で見た「日本に関する事実」というネパール語に日本語訳が書かれた掲示板です。
ご紹介すると「日本は古代の伝統と最先端の現在性が見事に融和した魅力的な国です。その息をのむような風景や独特の野生生物、豊かな文化遺産、画期的なテクノロジーなど、日本には無限の驚きと喜びがあります。ここでは、この素晴らしい国に関する15の面白い事実を紹介します」と書かれていて「そんな風に思ってもらえているんや」とニヤッとしてしまいました。
15の中には、「日本の公共交通システムはその時間厳守で有名です」「数字の4は不吉とされています」「家、旅館、寺院に入る前に靴を脱ぐのは習慣です」などと書かれていますが、思わず笑ってしまったのは「世界で最も忙しい歩行者用横断歩道があります」でした。

 

和田 行男 さん

1987年、日本国有鉄道から介護業界へ転身。1999年には、東京都初となる認知症高齢者グループホーム「こもれび」の施設長に就任した。淑徳大学客員教授。