パーキンソン病というと、皆様はどんな症状を思い浮かべるでしょうか?
手が震える、一歩目が踏み出しづらくなる、言葉が出にくくなるなどの症状が有名です。
しかし運動機能に関する症状以外に、様々な精神症状があることをご存じでしょうか?
今回は、パーキンソン病に出現する精神症状に着目して徹底解説します。
- パーキンソン病の精神症状
- パーキンソン病の精神症状の治療法
- 精神症状に対する認知行動療法
この記事を読み、パーキンソン病の方に出現する精神症状や、精神症状への対応方法に関する理解を深めていただけたら幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
パーキンソン病は、難病指定されている疾患でとくに高齢の方に多く見られます。パーキンソン病は早期の発見・治療によって進行をゆるやかにできるため、症状を見逃さないことが大切です。本記事では、パーキンソン病について解説します。[…]
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パーキンソン病とは
パーキンソン病とは、脳内のドパミン神経細胞という神経伝達物質が減少することによって発症する、神経系の難病です。
発症のきっかけとなるドパミン神経細胞が減少する原因は分かっておらず、根本的な治療法は見つかっていません。
現在の治療法は薬物療法が中心であり、減少したドパミン神経細胞を補う薬や、ドパミン神経細胞の働きを強める効果を持つ薬が処方されます。
症状としては、手の震えや体のこわばり、体のバランスを崩しやすくなる運動症状があります。
また、自律神経障害(便秘・頻尿・めまい・むくみなど)、嗅覚障害、睡眠障害、疲労や体重減少などもよくみられます。
さらに、パーキンソン病患者への支援において特に課題となるのが、認知機能や精神機能に関する障害です。
パーキンソン病は体の運動機能だけでなく、自律神経機能や精神面に影響を与える難病です。
根本的な治療が難しいため、適切な対応とサポートが支援のポイントとなります。
パーキンソン病の原因についてより詳しく知りたい方は、以下の記事も併せてご覧ください。
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パーキンソン病の精神症状
ご紹介したパーキンソン病の症状の中で、特に支援者が留意すべき症状の一つが精神症状です。
パーキンソン病では、主に以下の4つの精神症状が出現します。
- 抑うつ
- 幻覚
- 認知機能障害
- 妄想
治療法をご紹介する前に、具体的にどのような精神症状が出るのか確認していきましょう。
抑うつ
パーキンソン病で出現する精神症状の一つ目は、抑うつです。
様々な精神症状がある中で、抑うつの症状は最も発生する割合が高い精神症状とされています。
気分が落ち込んで何かをする気力がなくなったり、無関心状態や不安状態が続いたりする症状が抑うつの状態です。
一般的にうつ病とは区別して扱われますが、症状がよく似ていることから、パーキンソン病の起因するうつ症状なのか、うつ病を併発しているのかといった判断が課題となっています。
抑うつは、結果的に生活不活発による筋力の低下などを引き起こす重要な因子です。
意欲の低下や無関心によって活動の機会が削がれ、結果的に筋力の低下に繋がるからです。
周囲の支援者が状態の変化に気付いたときは、すぐにパーキンソン病を診断した専門医へ相談するようにしましょう。
幻覚
パーキンソン病で出現する精神症状の二つ目は、幻覚です。
幻覚の中でも特に多いのが実際には存在しないものが見える幻視です。
誰もいないのに誰かが話しているように聞こえる幻聴はあまり出現しません。
具体的な幻視の症状としては以下のようなものがあります。
- 家の中に知らない人がいる
- 床に虫がいる
- 壁に掛かっている絵が動いている
幻覚は、存在しないありえないものが自分だけに見える症状です。
家の中の物が突然動き出したり不審者のように見えたりするため、患者本人から見ればいつどんな恐怖が襲ってくるか分からない不安な状態です。
したがって、幻覚症状を訴えている際は、幻覚が患者自身に直接危害を加えないことを説明しながら、安心できるような声掛けを行うことが重要です。
パーキンソン病の幻覚についてより詳しく知りたい方は、以下の記事も併せてご覧ください。
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認知機能障害
パーキンソン病で出現する精神症状の三つ目は、認知機能障害です。
パーキンソン病は脳の神経に悪影響を及ぼす病気です。
そのため、パーキンソン病でも認知機能に障害を受ける場合があります。
しかし、パーキンソン病になると全ての患者が認知機能障害を発症するわけではありません。
例えば、下記のような症状が出ている方は、認知機能障害を併発しやすいと言われています。
- 高齢である
- ドパミンを補う薬の効果が出ていない
- 運動症状が進行している
- 抑うつや幻覚、嗅覚障害があらわれている
パーキンソン病で起きやすい認知機能障害は、次の4つです。
【パーキンソン病で起きやすい認知機能障害】
- 実行機能障害
→目的を達成するために必要な、段取りを考えながら計画して実行に移す能力が低下する - 記憶障害
→直前のことを覚えられなくなったり、過去の出来事を思い出せなくなったりする - 視空間機能障害
→目に映っているものを情報として捉えられなくなったり、空間認識能力が低下したりする - 社会的認知機能障害
→会話の中で相手の表情から感情を汲み取る能力が低下してしまう場合がある
パーキンソン病も、認知症の原因となる病気の一つです。
しかし、全てのパーキンソン病の方が認知機能障害を起こすわけではありません。
記憶障害や社会生活に影響する症状が多いため、早期に専門医に相談すること・周囲の方が理解してフォローすることが重要です。
妄想
パーキンソン病で出現する精神症状の4つ目は、妄想です。
妄想とは、ありもしないことをあたかも本当のことのように感じている状態のことです。
先ほどご紹介した幻覚とも密接な関係があり、本人が見た幻覚が妄想に発展する場合が多いです。
どれも本人の頭の中では実際に起こっていることなので、周囲の人は対応に困ったり驚いたりして、非常に困惑します。
また、本人も自分の中では事実として捉えていることを身近な人から「事実ではない」と否定されることになるので、自信を無くしたり自分自身に失望したりする危険性もあります。
具体的なパーキンソン病の方の妄想には以下のような症状があります。
- 「これから(実際にはすでに他界している)弟が泊まりに来るから準備をしなきゃ」と言って寝床を準備し始める
- 「布団を打ち直してもらったから、取りに行かなきゃ」と訴えて10㎞以上離れた店舗に向かって歩いていく
- 「ここに知らない人が倒れているから助けなきゃ!」と救急車を呼ぶ
先述したように、妄想は幻覚から派生することが多い精神症状です。
周囲から見れば明らかな異常行動でも、妄想の中にいる本人にしてみれば何の疑問もない合理的な行動です。
むやみに否定することはパーキンソン病の方の尊厳を傷つけてしまいます。
さりげなく話題を変えるなどして、気持ちを切り替えることができるように関わることが大切です。
パーキンソン病は、難病指定されている疾患でとくに高齢の方に多く見られます。パーキンソン病は早期の発見・治療によって進行をゆるやかにできるため、症状を見逃さないことが大切です。本記事では、パーキンソン病について解説します。[…]
パーキンソン病の精神症状の治療法
パーキンソン病の精神症状の治療法には、以下の3種類があります。
- 薬物投与
- ピアカウンセリング
- 病気の正しい理解
そもそも現代の医学では、パーキンソン病を完治させる方法が確立されていません。
完治させる方法が見つかっていないため、パーキンソン病の精神症状を抑える治療法に関しても根本的なところでは難しいものがあります。
しかし、専門機関へ相談して適切な治療を行うことにより、症状を緩和させたり進行を遅らせたりする効果が出ることが分かっています。
ここからは、パーキンソン病の精神症状を緩和したり進行を遅らせたりする効果が期待できる治療方法についてご紹介していきます。
薬物投与
一つ目にご紹介するパーキンソン病の精神症状の治療法は、薬物投与です。
パーキンソン病の運動症状についてはドパミンの減少を補う薬が用いられます。
しかし、パーキンソン病の精神症状に対する薬物投与については、元々服用している薬の種類や量を確認しながら慎重に実施します。
例えば認知機能障害に対する投薬としてはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト、レミニエール、リバスタッチパッチなど)が有効です。
しかし、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は運動機能障害を悪化させる可能性があるので投与量に注意します。
精神症状については、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬や抗精神病薬を使用します。
また、感染症や脱水症状が精神症状の原因となっている場合があり、見つかった場合は治療します。
さらに、抗パーキンソン病薬の投与量によって精神症状が悪化する場合があるので、原因となる薬剤が明らかであれば中止したり投与量を減らしたりしながら調整します。
パーキンソン病の薬物療法では、弊害も理解し、適切な投与量を見極める専門性が必要となります。
ピアカウンセリング
二つ目にご紹介するパーキンソン病の精神症状の治療法は、ピアカウンセリングです。
ピアカウンセリングとは、同じ境遇の方や同じ病気と闘っている方同士が対等な立場で話をすることを通じて、自分の気持ちを整理する相談援助技術の一つです。
アルコール依存症の方が参加する「断酒会」や認知症の方や支援する方が集まって語り合う「認知症カフェ」が有名です。
ピアカウンセリングは、パーキンソン病についてもよく実施されています。
会員があつまってお互いの困っていることや「こうすればよかった!」という体験談を語り合ったり、パーキンソン病の方が利用できる福祉施策などについて情報提供をし合ったりしています。
ピアカウンセリングは、パーキンソン病の方自身が同じような境遇の方と話を聞き合うことによって自信を取り戻したり、不安を和らげたりすることに効果があります。
病気の正しい理解
三つ目にご紹介するパーキンソン病の精神症状の治療法は、病気の正しい理解です。
パーキンソン病は、精神症状だけでなく、日によっても波がある運動機能障害を伴うことが特徴です。
運動機能障害は日内変動があり、薬が効いている時間と効きが弱まっている時間でも体の調子が変わります。
このため日常生活の一部しか知らない人や病気に対する知識に乏しい人から見れば普通に歩けるじゃないかと思われることもあります。
症状に波が生まれる運動機能障害に加えて精神症状が起きるので、本人だけで対処をするのは非常に難しい病気です。
同居する家族はもちろん、近隣住民や親戚などの協力者が病気を正しく理解することが大切です。
周囲の人が驚くような幻覚や妄想から派生する行動は「病気の影響である」ということを理解しましょう。
また、一見普通の人と変わらない歩き方をしていても、調子が悪くなるとスイッチが切り替わったかのように突然動けなくなることがあるということも理解しましょう。
50歳から65歳の方に発症することが多いパーキンソン病。日常生活に影響を及ぼし、治すことが難しい病は、高齢者の増加に伴い発症する患者も増えており、厚労省が指定している難病の一つです。パーキンソン病は一度発症しても治療すれば治る病なの[…]
精神症状に対する認知行動療法
精神症状に対する対応の一つに認知行動療法という心理療法があります。
パーキンソン病の方の中で最も多い症状が気分が落ち込んだり不安が強まったりする抑うつと言われています。
認知行動療法はパーキンソン病の精神症状である抑うつの状態に働きかける心理療法として取り入れられています。
認知行動療法とは、気分を持ち上げてくれる考え方や方法を学ぶことで、自分自身の心を整える方法を学ぶ心理療法です。
心のバランスを取ることにより、自分自身でストレスに上手に対応できるような考え方を学びます。
パーキンソン病の方の抑うつの状態は、適切に対処しないと運動機能の低下や病状の悪化といった悪循環の原因となってしまいます。
自分自身の力で気持ちや心のバランスを取る方法を学ぶ「認知行動療法」を取り入れることで、気分の落ち込みや不安を予防する効果が期待されています。
パーキンソン病の治療は薬物療法が中心です。しかし、重症化すると外科手術や胃ろうによる治療が検討されることもあります。本記事では、パーキンソン病の治療について、以下の点を中心にご紹介します。 パーキンソン病の治療法 […]
パーキンソン病の精神症状のまとめ
ここまで、パーキンソン病の精神症状の概要や治療法についてご紹介してきました。
以下に内容をまとめます。
- パーキンソン病とは、脳内のドパミン神経細胞という神経伝達物質が減少することによって発症する難病である
- パーキンソン病の精神症状には、「抑うつ」「幻覚」「認知機能障害」「妄想」などがある
- パーキンソン病の精神症状の治療法は、「薬物投与」「ピアカウンセリング」「病気の正しい理解」が中心である
- 精神症状に対する認知行動療法は、パーキンソン病の方にも有効である
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。