高次脳機能障害によるさまざまな症状が、その方をわがままに見せることがあります。
とくに高次脳機能障害は、外見からは疾患の判断ができないため、周囲から誤解されやすいです。
本記事では、高次脳機能障害の方のわがままについて、以下の点を中心にご紹介します。
- 高次脳機能障害の方がわがままと感じる原因
- 高次脳機能障害の方のわがままと感じることへの対処法
高次脳機能障害の方のわがままと感じることの対処のためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
高次脳機能障害に興味がある方は下記の記事も併せてお読み下さい。
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高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは、何らかの原因で脳が損傷し、知的機能や認知機能に重大な支障が出ている状態です。
脳が損傷する原因には、たとえば脳卒中や脳炎などのほか、転倒などによる頭部外傷があります。
高次脳機能障害の主な症状は以下の通りです。
- 失語(意味のある言葉をしゃべれない)
- 半側空間無視(視界のうち半分の空間を認識できない)
- 記憶障害(新しい情報を覚えられない・同じ話を何度も繰り返す など)
- 注意力障害(集中力が低下し、ミスが増える など)
- 遂行機能障害(計画を立てられない・時間を考えながら行動できない など)
- 社会的行動障害(怒りっぽい・わがまま・自己中心的 など)
高次脳機能障害の原因について詳しく知りたい方は下記の記事も併せてお読み下さい。
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出典:厚生労働省「高次脳機能障害支援モデル事業 中間報告書について」
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高次脳機能障害の方をわがままだと感じてしまう原因
高次脳機能障害の方をわがままと感じるのは、高次脳機能障害によって引き起こされる症状が原因です。
もし外見に明らかに病気やケガの痕跡があれば、異常な振る舞いやわがままにも納得できるかもしれません。
しかし高次脳機能障害は脳の異常によって起こるため、外見に異常はほとんどありません。
そのため、高次脳機能障害による症状は、周囲からすれば単なるわがままにしか見えないことが多いのです。
とくに周囲が「わがまま」と感じやすい高次脳機能障害の症状として、以下の4つを紹介します。
注意障害
注意障害とは、注意力が著しく低下する状態です。
具体的には、仕事や日常生活でミスが増えます。
あるいは、一つのことに集中すると、他のことがおろそかになるのも注意障害の特徴です。
たとえば、食事中にテレビをつけていると、テレビにばかり目がいって、食事が進まなくなるケースがあります。
とくに朝などは慌ただしい時間帯であるため、テレビばかり見て朝食が片付かないと、家事をする方はイライラしてしまいますね。
くわえて高次脳機能障害の方は怒りっぽい傾向があるため、急かすと、手が付けられないほど怒り、家族と喧嘩になることもあります。
もしくは、テレビに集中するあまり、「早く食べて!」という言葉すら耳に入っていないかもしれません。
高次脳機能障害の注意障害が原因だと知らなければ、子供っぽく、わがままにうつる振る舞いです。
記憶障害
記憶障害は、記憶機能に大きな支障をきたします。
とくに、つい最近の出来事や、新しい情報の記憶ができなくなることが多いです。
たとえば、いま切った電話の相手を思い出せないケースや、同じ話を何度も繰り返すケースがあります。
あるいは、人と会う約束をしたのに、約束したこと自体を忘れてしまうケースも多いです。
当然、約束を破られた相手は怒りますよね。
しかし高次脳機能障害の方は、約束したこと自体を忘れているため、最初から約束なんてしていないという認識です。
そのため、約束を破ったことを責められても、なんのことだか分かりません。
自分は悪くないという絶対の自信があるため、約束を破ったことを開き直ったり、怒り返したりすることも多いです。
約束を破られた方からすると、とてもわがままな行動に見えてしまいます。
遂行機能障害
遂行機能障害が起こると、一度に複数の情報を処理するのが難しくなります。
たとえば15時に人に会う予定があり、それまでは家事をして過ごすとしましょう。
通常であれば、家事にかかる時間を予測し、逆算しながら段取りを進めていきますね。
しかし遂行機能障害の方は、複数の情報を処理して優先順位をつけることが困難です。
具体的には、計画を立てて効率よく物事を行えなくなるのです。
そのため、なにから手を付けてよいのか分からず、約束の時間に間に合うように出かけることが困難になります。
結果として、悪気はないけれど約束を破ることも少なくありません。
そのため、相手からすると、いつも約束を破るわがままな人に見えてしまいがちです。
その他の症状
その他の症状が原因で、高次脳機能障害の方がわがままに見える場合もあります。
具体的には以下の症状がみられます。
- 意欲・集中力の低下(自分から行動しない・依頼されたことを達成できない など)
- 固執性(一つの物事に執着する・周囲の意見に耳を貸さない など)
- 感情失禁(感情がコントロールできず、怒りっぽくなる など)
- 依存性(すぐ他人に頼る・自分で物事を判断できない)
- 感情の鈍麻・共感力の低下(他人に関心がなくなる・家族を気遣えない など)
- 衝動性・脱抑制(衝動的な行動が多くなる・欲求を我慢できない など)
- 抑うつ(気分がふさぎ、なにも手につかない)
- 反社会的行動(欲求が我慢できず、万引きや痴漢などの軽犯罪を平気で犯す)
上記の症状は、あわせて「社会行動障害」とも呼ばれます。
その場に相応しい振る舞いができないため、周囲からするとわがままな言動が目立ちます。
高次脳機能障害の症状について詳しく知りたい方は下記の記事も併せてお読み下さい。
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高次脳機能障害による症状の対応法
高次脳機能障害の症状の改善には、リハビリやメモの活用が有効です。
ただし、高次脳機能障害の方一人で取り組んでも、十分な効果を得られないこともあります。
家族や周囲の方が協力して、高次脳機能障害の方が安心して暮らせるような工夫を施すことが大切です。
注意障害
注意障害の対応法は主に2つあります。
1つ目は、注意力を保つ訓練です。
たとえばパズルやゲームを使って集中力を鍛える方法があります。
2つ目は、注意力を保ちやすい環境を作ることです。
たとえば人の話し声や、テレビ・ラジオを通ざけることで、雑音がなく集中しやすい環境を整えます。
いずれにしても、注意が散漫にならないように周りの環境を整えておくことが大切です。
大勢がいる場所を避けて、静かな場所で作業をするといった対応も有効です。
集中力が低下している状態で集中しようとすると疲れやすくなります。
家族は、本人の表情の変化を見逃すことがないように、もし疲れた表情や居眠りしているようなら休憩を取り入れるようにしましょう。
記憶障害
記憶障害では、獲得した情報に対して記憶を保持する力が低下している状態です。
対応としては、意識して記憶を印象付ける訓練を行います。
たとえば復唱や同じ質疑応答を繰り返す「反復訓練」が有効です。
あるいは、記憶の代替手段としてメモの活用もおすすめです。
「書く」「見る」という2段階を経ることで、物事が記憶に印象づけられやすくなります。
人によっては携帯やカメラの方が使いやすいというケースもあるので、いろいろなツールを試してみましょう。
遂行機能障害
高次脳機能障害の遂行機能障害では「計画が立てられない」「片付けができない」「指示がないと何もできない」といった症状が現れます。
計画外のことが起こったときなど、対応できずにパニックを起こすこともあります。
計画通りにいかないのは、手順を飛ばしたり、勝手に予定にないことをしたりしてしまうからです。
遂行機能障害が生じている方は、作業の段取りをつけるのは苦手ですが、一つ一つの作業を遂行するのに問題はありません。
そのため、適切なタイミングで指示をもらえれば、作業の遂行が可能です。
頻度の高い家事などは手順をマニュアル化し、よく見える場所に貼っておくのもよい方法です。立てた計画が無理のないものなのかを家族と一緒に確認して、余裕を持ったスケジュールに変更するなどの対応が必要になります。
パニックを起こしそうになったら、一旦その場から離れて飲み物を飲むなどして、一息入れるように誘導しましょう。
社会的行動障害
高次脳機能障害の社会的行動障害は「すぐに怒ったり泣いたりする」「相手を思いやることができない」「こだわりや固執がつよくなる」といった症状が現れます。
周りから見ると自己中心的な行動と思われてしまうため、孤立しやすくなります。
感情のコントロールができず爆発してしまった場合には、まず落ち着かせることが大切です。
落ち着いた状態になってから、何があったのか、何が嫌だったのかなど聞き役に徹する対応をしましょう。
そのうえで次にこのような場面に直面したら、どうしたらいいのかといった予防策を一緒に考えましょう。
住環境を整える
シンプルで分かりやすい住環境を整えましょう。
たとえばトイレまでの道のりが分かりやすくなるよう、廊下の家具を片付けたり、道順を示す矢印を壁に貼ったりします。
1日のスケジュールをリスト化し、目につく場所に掲げておくのも良い方法です。
次になにをすればいいのか一目でわかるため、安心して生活しやすくなります。
高次脳機能障害の対応について詳しく知りたい方は下記の記事も併せてお読み下さい。
高次脳機能障害のリハビリ
高次脳機能障害のリハビリは、発症してから一年以内に始めるのが最も効果的だとされています。
少しでも早くリハビリを開始することが回復への近道といえるでしょう。
医学的なリハビリや生活でのリハビリなど、患者さんの症状に対応したリハビリが必要になります。
記憶障害のリハビリ
記憶障害のリハビリにはタイマー機能の活用などがあります。
外的代償手段といいますが、記憶を補うためスマホ、時計のタイマー、メモ、カレンダーなどを利用します。
環境調整もリハビリの一環です。
モノを置き忘れたりしないように、引き出しにはラベリングをする。
作業の手順を忘れないように表にするなどで対応します。
病院では「反復訓練」「顔=名前連想法」「視覚イメージ法」などがリハビリに取り入れられています。
注意障害のリハビリ
注意力を少しでも長く持続させるために行うリハビリです。
たとえば、「パズル」「かるたやトランプ」「辞書や電話帳を調べる」など課題を時間内にクリアするリハビリを繰り返します。
初めからハードルを上げてしまうのはNGです。
高次脳機能障害の患者さんが最初から長い時間集中力を維持するのは大変です。
確実にクリアできる時間を設定して、徐々に長くしていくことがこのリハビリを成功させるカギです。
遂行機能障害のリハビリ
一つの作業について、計画の立て方や解決法を一緒に考えるリハビリを行います。
マニュアルを見ながら作業を進めていく、その結果のフィードバックを行うなどです。
たとえば、パズルや積み木を組み立てる作業や共同で作品を作る作業など、いろいろな課題の中で失敗を繰り返しながら学んでいきます。
社会的行動障害のリハビリ
問題行動が出たとき、何が問題でどう対処するべきなのかを患者さんと一緒に考えていきます。
もし、不適切な行動が出てしまった場合、その時点で相手の方は姿を消す、あるいは本人に出て行ってもらうといった対応をします。
このようなリハビリを繰り返すことで、何が周りを不快にするのかを学んでいきます。
高次脳機能障害の相談窓口
高次脳機能障害を負った方の相談窓口として、「高次脳機能障害情報・支援センター」があります。
高次脳機能障害情報・支援センターは、国立障害者リハビリテーションセンターに併設されています。
主な役割は、高次脳機能障害に関する有意義な情報提供や、普及啓発活動などです。
また、高次脳機能障害が原因で日常生活・仕事に支障をきたしている方に、生活支援や就労支援を行うのも大切な役割です。
福祉機関や医療機関とも連携しており、高次脳機能障害の方を適切な医療・介護サービスにつなげる働きもあります。
各自治体においては、公の医療機関に設置されていることがほとんどです。
具体的な医療機関の検索は、「高次脳機能障害情報・支援センターウェブサイト」などから可能です。
高次脳機能障害の方のわがままへの対応のまとめ
ここまで、高次脳機能障害の方のわがままと感じることについてお伝えしてきました。
要点を以下にまとめます。
- 高次脳機能障害の方がわがままに見えるのは「注意障害」「記憶障害」「遂行機能障害」などの代表的な症状が原因
- 高次脳機能障害の方への対応法は、それぞれの症状に合わせて「リハビリ」「メモの活用」「住環境の整備」などを行なっていくこと
- 病院では、症状に対応したリハビリを行い改善に向けてステップアップしていく
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。