手術後にせん妄が起こると聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。
どんなことを術後せん妄というのか、原因は何なのか分からないという方もいるでしょう。
この記事では以下について解説していきます。
- 術後せん妄の治療
- 術後せん妄の原因
- 術後せん妄の予防
- 術後せん妄を起こしやすい薬
術後せん妄の予防方法についても解説しているので、困っている方はぜひ参考にしてみてください。
スポンサーリンク
術後せん妄とは
せん妄とは、時間や場所などが分からなくなる見当識障害から始まり、注意力、思考力が低下して様々な症状をきたす状態のことを言います。
術後せん妄は、手術後にそのようなせん妄状態になることです。
症状としては、認知機能障害、注意力の障害や意識混濁、知覚障害などです。
感情の障害や精神面での障害もあり、これらの症状から随伴症状を引き起こすこともあります。
随伴症状は、夜眠れない、頻繁に目が覚める、不眠や昼間寝て夜起きてしまう、昼夜逆転傾向などの症状です。
術後せん妄は、認知症の症状と似たような症状が出ることもあるため、認知症と勘違いされてしまい、術後せん妄を見過ごしてしまう危険性があります。
そのようなことがないように、術前術後の患者さんの精神的・身体的状態をいつも以上に丁寧に見ていく必要があります。
認知症は根本的な治療はありませんが、術後せん妄は早期の発見で治療すれば回復可能です。
術後せん妄は認知症との区別をきちんとして、適切な診断が必要になってきます。
術後せん妄で困ってしまうのが術後安静にしておかなくてはいけないのに混乱して動いてしまったり、ドレーンなどを触り術後の回復が遅れてしまうことです。
症状は夜に悪くなることが多く、大抵の場合一週間程度で症状が落ち着いてきますが、術前から適切な対応をして予防していくことが大切になってきます。
せん妄によって、急に時間や場所の認識に異常が起こる、または急に無気力になってしまう、高齢者の方がいます。もし、家族や周りの方にせん妄の症状が現れた場合、どのように対処すればよいのでしょう?今回はせん妄について以下の項目を中心に解[…]
スポンサーリンク
術後せん妄の治療とは
術後せん妄の治療の方法としては、術後せん妄を引き起こしている要因を除去することと、薬物療法です。
術後せん妄の誘発因子の除去としては、家族や医療スタッフからの話しかけや昼夜の区別をさせるために意識的に覚醒させるなどで刺激を与えるようにするのが有効と言われています。
薬物療法としては、抗精神薬や睡眠薬などを症状に合わせて使用していきます。
薬物療法で使用する薬については以下のようになります。
内服でき興奮がある場合
- リスパダール
- ルーラン
- セロクエル
- ジプレキサ
セロクエル、ジプレキサは糖尿病には禁忌の薬のため、使用時には既往歴がないか確認が必要です。
内服でき興奮がない場合
- レスリン
- テトラミド
薬物療法で使われる薬は、興奮や神経の高ぶりを抑えるものが多いです。
薬の副作用で、傾眠傾向になったりと注意が必要になります。
薬を使わずに落ち着くことに越したことはありません。
せん妄の治療と同時に、安全を確保するために拘束が必要になる場合もありますが、できれば拘束は行わずに回復してもらいたいものです。
せん妄時には環境を整えることで身体拘束や薬を使わずに対応できます。
- 部屋の明るさを適度に明るくする
- 静かな環境にする
- 患者優先にする
- 家族の訪問を促す
症状が消失するまでは一週間程度かかります。
それまでは、頻回な声かけや薬物治療でしのいでいくことになります。
せん妄によって、急に時間や場所の認識に異常が起こる、または急に無気力になってしまう、高齢者の方がいます。もし、家族や周りの方にせん妄の症状が現れた場合、どのように対処すればよいのでしょう?今回はせん妄について以下の項目を中心に解[…]
術後せん妄の原因とは
術後せん妄の原因としては、手術よるものです。
特に長時間に及ぶ手術の場合に起こりやすいでしょう。
原因には直接的原因と身体的要因があります。
直接的原因
- 長時間の麻酔・麻酔の使用薬剤
- 長時間の手術時間
- 術後合併症
身体的要因
- 高齢者
- 性格
- 飲酒
- 基礎疾患(血管障害、腎・肝機能障害、脳器質性疾患、認知症などの認知機能障害)
- 薬剤の常用(睡眠薬、抗不安薬、抗コリン薬、ステロイド)
術後せん妄の原因には、上記のようなものがありますが、それだけでなく術後せん妄を起こしやすくしてしまう要因もあります。
その要因のことを誘発因子と言いますが、それは以下のようになります。
誘発因子
- 環境の変化
- チューブ類の留置(ドレーンや点滴ルートなど)
- 安静による身体制限
- 睡眠障害
- 掻痒感や痛み
- 精神的ストレス
症状の出現は、急激に起こり日内変動(昼は比較的落ち着いていて、夜に症状が出やすい)があります。
術後せん妄は、日時を特定できるくらい急激に症状が現れます。
認知症症状との区別が難しいこともありますが、術前からよく見ておくことで見落としてしまうことはないでしょう。
術後せん妄の対応は早期発見が必要です。
術前術後は、しっかりと様子を見て行くことが大切です。
せん妄を起こしやすい薬とは
術後せん妄を起こしやすい薬があります。
手術前にこれらの薬の内服の有無を確認し、術後に備えることで術後せん妄の早期発見に繋がるでしょう。
薬の種類と用途については以下のようになります。
抗コリン作用薬
抗コリン作用薬とは胃腸の過活動による胃痛や腹痛、失禁、乗り物酔いなどの吐き気の抑制に使われる薬です。
抗コリン作用剤には、ピペリデン、トリヘキシフェニジル、アトロピン、ブチスルコボラミン、ベンプロペリンなどが挙げられます。
鎮痛薬
鎮痛薬は痛みを取る薬です。
- 麻薬性鎮痛薬:モルヒネ塩酸塩、モルヒネ硫酸塩
- 麻薬拮抗性鎮痛薬:ペンタゾシン、ブプレノルフィン
- 合成麻薬:ペチジン、フェンタニル
- 非ステロイド性抗炎症薬:アスピリン、インドメタシン、イブプロフェン、ナプロキセン、ブチスルコポラミン、アトロピン
気分安定薬
気分安定薬は感情の高ぶりや行動を抑える薬です。
躁病や抗不安薬などの作用を補助するために使われる薬です。
一般的な商品でリーマスがあります。
抗てんかん薬
抗てんかん薬はてんかん発作時に使われる薬です。
アレビアチンやフェノバールなどが挙げられます。
循環器系薬(降圧剤、抗不整脈薬)
降圧剤は血圧を下げ、抗不整脈薬は不整脈を改善する薬です。
ジゴキシン、プロカインアミド、ジンピラミド、リドカイン、クロニジン、プロプラロールなどが挙げられます。
副腎皮質ステロイド
副腎皮質ステロイドは体の中の炎症を抑えたり、免疫力を抑えたりする作用があります。
商品としてはプレドニゾロンやプレドニンがあります。
気管支拡張薬
気管支拡張薬は気管支を拡げるお薬です。
ホクナリン(ツロブテロールテープ)、テオドール、ベネトリン、スピリーバなどがあります。
免疫抑制剤
免疫抑制剤は体内で起こっている過剰な免疫反応を抑えたり、炎症を抑えてくれる薬です。
ネオラールやブレディニン、エンドキサンなどが挙げられます。
抗菌薬
抗菌薬とは、細菌を壊したり、増やしたりしないようにする薬です。
抗生剤と呼ばれるものも抗菌剤の中に含まれます。
カナマイシンやケフラール、フロモックス、クラリスロマイシンなどがあります。
抗ウイルス薬
抗ウイルス薬とは、ウイルスが体内にくっつくのを防ぐ、ウイルスが体内で増えることを抑える薬です。
はしかや水疱瘡、インフルエンザなどに使われる薬になります。
抗がん薬
抗がん薬とはがん細胞を攻撃する薬です。
抗癌薬にはニムスチン、カルボプラチン、シクロホスファミド、ネタプラチンなどがあります。
これらの薬を使用している時には、術後せん妄を起こしやすくなります。
術後せん妄が、起こりやすいということを理解しておき、精神面などでの変化があったときには、早期に対応していくことが必要となってきます。
術後のせん妄は予防できないの?
術後のせん妄は、せん妄になる危険因子をもっている人は特に注意して早期のうちから介入することで予防できます。
術後せん妄の危険因子としては以下のようになります。
- 60歳以上の方
- 4時間以上の手術
- 環境の変化
- 術後の点滴やドレーンなどのルート類
- アルコール依存
- 精神疾患の既往
- 認知症の合併、せん妄の既往など
- 検査データーなどの明らかな異常(貧血や電解質異常など)
- 術後の疼痛
上記のような危険因子に対して、早期のうちから介入していくことでせん妄の予防に繋がっていきます。
術前から服用中の薬や既往歴、手術前の精神状態などを見ていき、介入していくことで術後せん妄になるリスクを軽減していくことができるでしょう。
また、患者さんの日ごろの様子について知っておくことも、早期発見に繋がります。
術後せん妄の予防のためには、家族や医療スタッフが連携し手術前から介入していくことが大切です。
術後せん妄のまとめ
ここまで術後せん妄について、術後せん妄の治療と認知症の原因などを中心にお伝えしてきました。
この記事のポイントをおさらいすると以下の通りです。
- 術後せん妄とは、手術後に見当識障害や意識混濁などの精神障害、知覚障害などの症状があらわれること
- 術後せん妄の治療は、せん妄の誘発因子の除去と薬物療法
- 術後せん妄の原因は、長時間の麻酔や長時間の手術、基礎疾患があるなど
- せん妄を起こしやすい薬は、気分安定薬や鎮痛剤、循環器系の薬など
- 術後せん妄は、術前からの介入や術後の変化の早期発見、家族の協力などで予防できる
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。