「ダブルケア」という言葉をご存じですか。
比較的新しいため認知度が低い概念ですが、近い将来、社会的に大きな問題になると指摘されています。
本記事ではダブルケアについて、以下の点を中心にご紹介します。
- ダブルケアとは
- ダブルケアの負担を軽減するための対策
ダブルケアの対策のためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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介護と育児の両立は難しい
ダブルケアの内容について詳しく見ていきます。
ダブルケアとは
ダブルケアとは、子育てと介護を同時に行っている状態です。
介護の対象には、自分の親や親族のほか、配偶者の親・親族も含まれます。
あるいは、複数のケアを担うことをダブルケアと呼ぶこともあります。
たとえば自分の親と配偶者の親の介護を同時に担ったり、自身の闘病と子育て・介護を同時進行したりするケースがあります。
ダブルケアを行う方は、「ダブルケアラー」と呼ばれます。
なお本記事では、タブルケア=子育て・介護を同時に行うことと定義しています。
ダブルケアが起こる理由
ダブルケアが増加している理由として、女性の晩婚化・高齢出産化や、兄弟・親族間のつながりの希薄化が挙げられます。
近年は女性の社会進出に伴い、初産が30歳以降という方も少なくありません。
結果として、親に介護が必要となるタイミングに子育てが重なるというケースが多く見られます。
また、兄弟間や親族とのネットワークの減少もダブルケアの増加に拍車をかけています。
子育て中の方が、親の介護への協力を兄弟・親族間に求めても、さまざまな理由から拒否されることがあります。
すると当然ながら、介護の負担は子育て中の方一人にのしかかります。
あるいはもともと兄弟がいない一人っ子世帯でも、やはりダブルケアのリスクが高まります。
ダブルケアの実態
平成28年発表の内閣府の委託調査では、ダブルケアを行う人口は推計25万人でした。
このうち、女性が約17万人であるのに対し、男性は約8万人でした。
つまりダブルケアは、とくに女性に負担が大きいことが分かります。
また、ダブルケアを担う女性のうち、就業している方は約半分でした。
一方、男性の場合は約90%が有業者です。
つまりダブルケアは、働き盛りの世代が直面する問題でもあるのです。
実際に年代別にみると、ダブルケアラーは30~40歳の方に最も数が多く、男女ともに全体の約80%を占めます。
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ダブルケアによる影響は何がある?
ダブルケアは、将来的に大きな社会問題になるとも指摘されます。
ダブルケアが抱える問題について解説します。
女性に対する負担が増加する
ダブルケアは、とくに女性に負担がかかりがちです。
実際に平成28年の内閣府の委託調査でも、女性のダブルケアラーは男性の約2倍という結果が出ています。
ダブルケアが女性に集中する理由は、「介護・育児は女性の仕事」という考えが、現代でも根強く残っているためです。
また女性がダブルケアを行う際には、周囲の手助けが受けられないというデータもあります。
同じく内閣府の調査によると、女性のダブルケアラーのうち、配偶者からの日常的なサポートを受けられるのは4人に1人です。
対して男性のダブルケアラーでは、約半数以上が配偶者からの手助けをほぼ毎日受けられるという結果になりました。
つまり女性のダブルケアは、男性の場合と比べてとくに負担が大きいことが分かります。
少子化によってケア負担の分散ができない
昔は介護・子育ては家族や親族が協力して行うものでした。
しかし最近は少子高齢化により、協力し合える兄弟・親族がいないという方も増えています。
あるいは核家族化により、兄弟がいても親の介護を分散できないケースもあります。
結果として、一人の人に子育てと介護の負担が集中してしまいます。
離職率が高まる
ダブルケアのために、仕事を辞めざるを得ないケースもあります。
とくに女性は、男性よりもダブルケアによる離職率が高くなっています。
内閣府の委託調査では、ダブルケアを理由とする女性の離職率は全体の17.5%でした。
また離職はしていないものの、業務量・労働時間が減少した女性は全体の約21%です。
つまり、ダブルケアによって業務量・労働時間が減少した女性は、トータルで約40%いることになります。
対して男性は、ダブルケアによって業務量・労働時間が減少した方は約20%です。
いずれにしろ、労働量の減少は収入の減少につながります。
ダブルケアによって金銭的に苦しくなる家庭も少なくありません。
社会的な孤立が起きてしまう
ダブルケアのサポートに関する法的整備や行政のサポート体制は、未熟です。
理由として、ダブルケアの認知度の低いことがあげられます。
子育てと介護を同時進行すること自体は、昔からさほど珍しくはありませんでした。
しかし「ダブルケア」という名称がつき、社会問題として認知されるようになったのは、2012年以降なのです。
現状では、子育てと介護に関する相談窓口はそれぞれ整備されています。
しかし、子育てと介護を一本化した相談窓口はほとんどありません。
そのため、ダブルケアを担う方の多くは相談相手を持てず、社会的に孤立しやすいです。
また、親族や地域とのつながりの希薄化により、身近に頼れる存在がいない点も孤立しやすい理由の一つです。
ケア負担から心理的負担も増加する
子育てと介護は、どちらも肉体的・精神的疲労が大きいものです。
たとえば夜通しの授乳や介護によって、睡眠時間を大幅に削られることも少なくありません。
肉体的な疲労は、精神的な疲労を倍増させます。
ダブルケアによる疲労の蓄積が、育児・介護の放棄や、虐待などに発展することもあります。
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ダブルケアの負担を軽減するには?
ダブルケアの当事者には非常に大きな負担がのしかかります。
しかし、工夫次第ではダブルケアの負担を軽減することもできます。
現在ダブルケアに苦しんでいる方はもちろん、今後直面する可能性のある方も、ぜひ以下の対策に取り組んでみてください。
家族・親族に相談する
介護・子育ては一人で抱え込まず、家族や親族間でなるべく分散させましょう。
できれば実際にダブルケアが始まる前に、ある程度の方向性や分担方法を話し合っておくのがベストです。
家族・親族間で話し合うべきポイントは以下の通りです。
- ダブルケアラーとなる可能性が高い方の特定
- 介護・子育ての中心人物となる方
- 介護の方向性(在宅or施設・延命治療の有無 など)
- 介護のための費用をどこから出すか(親の貯金・家族で出し合う など)
とくに介護の話は、家族間であってもあまり触れたくないテーマかもしれません。
しかし、それぞれが現在の状況を率直に話しあうことでより現実的な介護計画が立てられます。
いざというときに一人の方が苦しまなくて済むように、納得のいく話し合いをしましょう。
情報収集を行う
情報収集は早い段階から始めましょう。
実際にダブルケアが始まると、情報収集にまで手が回らないことがほとんどです。
現状では、ダブルケアに関する支援は数が多くありません。
そのため情報収集は、子育てと介護それぞれに分けて行う必要があります。
情報収集を行う際は、以下のポイントを押さえましょう。
- お住まいの自治体によるサポート体制や支援制度
- 支援制度の申請窓口
- ダブルケアのサポート窓口があるかどうか
ダブルケアのコミュニティに参加する
ダブルケアラーは社会的に孤立しやすいため、相談相手を作っておくことが大切です。
ダブルケアラーのコミュニティやネットワークには、なるべく参加してみましょう。
同じ境遇にいる方同士の交流では、思わぬアドバイスをもらえることも多いです。
また、同じ苦しみを共有することは、単純に勇気が出るものです。
近年は、ダブルケアラーの方の地域コミュニティやネットワークも徐々に増えています。
自治体によっては、ダブルケアラー向けのポータルサイトを設置していることもあります。
インターネットや地域包括支援センターなどを活用しながら、参加できるコミュニティがないかこまめにチェックしましょう。
経済面の準備を予めしておく
ダブルケアによって離職せざるを得ないケースは多いです。
離職はそのまま生活苦に直結するため、あらかじめ経済面での対策を立てておくことが大切です。
代表的なのは貯蓄です。
あるいは保険や年金なども、いざというときの備えになります。
金銭問題は、家族全体の問題です。
現実的な貯蓄プランや金策を行うためにも、家族全体でしっかり話し合いましょう。
勤務先の休暇制度などを利用する
ダブルケアによって仕事を続けるのが難しい場合は、介護休暇や育児休暇などを取得するのも一つの方法です。
介護休暇の取得日数は、最大93日です。
育児休暇の日数は男女で異なりますが、おおむね子供が1歳になるまでが限度です。
介護休暇や育児休暇を取得するには、従業期間や勤務日数などの条件を満たす必要があります。
また、休暇制度はあくまで一時期の休業でしかありません。
しかし、一時的にでも仕事を休んでダブルケアに専念できることは、ダブルケアラーの大きな負担軽減になります。
できれば休業中に介護サービスの利用などを検討し、仕事とダブルケアを両立させる工夫をしましょう。
介護施設などを利用する
介護施設を利用するのも一つの方法です。
介護施設への入居は家族にとっても抵抗のあることかもしれません。
しかし、介護施設への入所はダブルケアラーの負担を大きく軽減するのも事実です。
入居者本人にとっても、専門スタッフのケアを受けられるというメリットがあります。
ある程度の出費はありますが、ダブルケアの負担が大きいと感じる場合は視野に入れてみましょう。
介護施設は長期的な入居施設のほか、一時滞在型のものもあります。
自治体の窓口に相談する
自治体によっては、ダブルケアの支援制度を整えているところもあります。
利用できるサービスや制度がないか、インターネットなどで調べてみましょう。
あるいは、ケアマネージャーや地域包括支援センターに相談してみるのもおすすめです。
ダブルケアの負担が大きくなりすぎると
ダブルケアの負担が大きすぎる場合、どのようなリスクがあるのか解説します。
育児うつ・介護うつになる可能性も
ダブルケアによって、育児うつや介護うつに陥ることも少なくありません。し
育児うつと介護うつの内容や対策について、それぞれ解説します。
育児うつとは
育児に疲れ、精神的・肉体的にさまざまな不調があらわれている状態です。
具体的には以下のような症状があらわれます。
- 悲しい気持ち・憂鬱
- 何事に対しても意欲ややる気がわかない
- 何をしても気分が晴れない
- 疲れやすい・疲れがとれない
- 眠りが浅い・夜眠れない・朝目が早くさめる
- 食欲がわかない
- 人に会いたくない
- ささいな失敗やミスを気にする
などです。
介護うつとは
介護の負担の大きさから、心身にさまざまな支障が出ている状態です。
とくに介護は終わりが見えないため、絶望感から介護うつになる方が少なくありません。
介護うつの具体的な症状は以下の通りです。
- 疲れやすい・疲れがとれない
- 常に介護のことが頭から離れない
- 憂鬱・気分が落ち込む
- 介護以外のことをしても気分が晴れない
- 不安や焦燥感
- 不眠・睡眠障害
- 食欲不振
- 集中力がない・ささいなミスが多い
などです。
育児うつの対処法
育児うつに対処するには、必要以上に自分にプレッシャーをかけないことが大切です。
また、自分自身を労わることも大切にしましょう。
- 一人で抱え込まず、誰かに相談する
- ときには一人の時間を作る
- 完璧を求めない
- 地域の支援制度や相談窓口を活用する
などです。
介護うつの対処法
介護うつを解消するには、介護の負担を軽減するような工夫が必要です。
また、ストレスを自覚し、意識的に解消する工夫も求められます。
- 介護サービスを利用する
- 行政の窓口や地域包括支援センターに相談する
- 家族や親族で介護の負担を分散する
- 悩みやつらいことは、信頼できる相手に相談する
- 趣味や自分のための時間をもつ
などです。
ダブルケアを行う女性の就業と雇用体系
ダブルケアを行う女性は、6割近くの方が就業を希望されています。
半数以上が、ダブルケアをしながらも就業を考えているということです。
また、そのなかでも8割近くの方が非正規雇用での就業を希望しています。
非正規雇用とは、パートやアルバイト、派遣社員といった一定期間の雇用形態です。
非正規雇用だと、ダブルケアの時間も確保できることが理由として考えられるでしょう。
このことからも、ダブルケアをしている女性は、半数以上の方が就業を希望しています。
また、8割近くの方が非正規雇用での就業を考えていました。
ダブルケアのまとめ
ここまで、ダブルケアについてお伝えしてきました。
要点を以下にまとめます。
- ダブルケアとは、子育てと介護が同時期に発生することで、とくに女性への負担が大きい
- ダブルケアの負担を軽減するための対策は、「家族間での介護の分散」「国・行政の支援制度の活用」「介護サービスなどの利用」「ダブルケアに備えた貯蓄」などがある
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。