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健達ねっと>マガジン>羅針盤>和田行男>和田の千思万考 vol.1

和田の千思万考 vol.1

羅針盤Q&A編

認知症の状態にある方のご家族からのご相談をいただきました。良く受ける質問なので、質問者の了解を得て、この場をお借りしてお応えさせていただきます。

 

Q:認知症の状態になった義父の行動についてです。よく認知症になると「子供返り」すると聞きますが、どう接すればいいのでしょうか。知人から「認知症になると子供と同じ状態になるのだから、子供のように関われば良いのよ」と言われましたが、どうもしっくりきません。

 

A:子供と同じ状態になる、子供返りするから子供のように関わるというアドバイスは間違っています。

 

介護している家族の方だけでなく、市民向け講演会で市民の方からも同様の質問を受けます。また、介護の仕事に就いたばかりの方の中にも高齢者に対して子どもを扱うような言葉かけや態度で接する方を見かけますし、認知症の状態にあることを「子どもと同じだね」と言う方もいます。

 

確かに認知症の状態になると、起こる事象として「手づかみで食べようとしたり食べたりする」「信号の色に関係なく道路を横断しようとしたり横断することがある」ので「まるで幼子のようだ」と捉えてしまうのは無理からぬことです。

僕もあなたも、きっと幼子の時は同じようなことをしたことでしょうし、今現在認知症の状態にある方々も、かつてはそうしてきたことで、誰もが通過する道でしょう。

 

僕らは、産まれてからしばらくの間、今の僕らと違って「できないこと・わからないことだらけの状態」でしたが、手づかみで食べる状態から道具を使いこなして食べられるようになり、どこでもここでもフリーに行動していたのが信号の色を見てルールに沿って行動することができるようになりました。

 

つまり「できないこと・わからないこと」が「できるようになった・わかるようになった」ということですが、
なぜそうなれたか一言で言えば、「できる・わかる脳の状態になった」からで、
その脳の状態を維持することができているから「できなかったことができるようになり、でき続けられている」「わからなかったことがわかるようになり、わかり続けられている」ということで、
脳が今の状態じゃなくなったら、できなくなったとしても、わからなくなったとしてもおかしくありません。

 

認知症という状態は後天性の病態(認知症になる原因にアルツハイマー病や脳梗塞などの疾患があり、そのことによって起こる状態)で、子どもから成人になった後に脳の病気等によって起こってきます。

子ども返りするということならば「できないまま」ですから、道具を使って食べようとはしないでしょう、信号の色を見て判断して行動しようとはしないでしょう、車の運転をしようとはしないでしょう、仕事に行こうともしないでしょう。

認知症という状態になるまで生きてきた中で積み上げてきた「コト」の量も質も子どもとは比べ物にならないということであり、認知症になるまでに蓄積された生活の習慣などは、認知症になってかなり経っても「できることがある」でしょうし、本人は「できる」と思っていることも多々あることでしょう。

たとえ車を運転しようとすることや仕事に行こうとする行動がなくなったとしても、「そのことをしなくなった」というだけで、全てのことが子どもと同じ状態に戻るわけではないのです。

子ども返りという捉え方の危険性は、「子どもと同じだからしつけが大事」「怒らなきゃわからない」というように、支援者が認知症の状態にある方に対して一人の成人として対等に関わりをもたなくなってしまうことにあり、その捉え方は虐待を生むことにもなりかねません。例え、いろんなことができなくなったとしても、わからなくなったとしても最期まで一人の大人としてお父さんに関わることを大事してください。

 

Q:認知症になった一人暮らしの母親の娘ですが預かってくれる施設を探しています。何か良いアドバイスをいただけないでしょうか。

 

A:やがてくる死まで「お母ちゃんにどんな姿で生きてもらいたいの?」

 

お母さまの状態を確認したうえで、ご相談をいただいた方と以下のようなやりとりをしたことがありますので、参考にしてください。

 

「この先、お母様がどんな暮らしをされることを望んでいますか」

「どういうことでしょうか」

「わかりやすく言えばホテルのように何でもしてくれる介護施設がよいですか、それともお母さんがもっている・いるであろう生活能力を存分に発揮させてくれる施設が良いですか」

「母親は歩くことはできますが認知症で何にもできないと思うのですが・・・」

 

そこで、僕がグループホームで行っていた支援の事例(本人の意思を確認する。本人が自身でできるように支援する。例えば、買物や調理、更衣などについて具体的な支援例)を出して、改めて考えてもらうことにしました。

 

「認知症の状態になった母親に、そんな暮らし方ができるのでしょうか。できるのなら、もともといろいろなことができた人なので、できればそれを取り戻してくれるところが良いです」

「ただし、本人の意思を尊重し本人が自分でできるように動けるように支援するというのは、動きを生まないようにするところよりリスクも高まりますが、覚悟はできますか」

「家にいても同じですから、大丈夫です」

 

残念ながら僕が勤めていたグループホームは満室だったので、僕と同じように考えて支援している友人の介護事業所を紹介しました。

入居後の後日談ですが、娘さんは紹介した介護事業所に入居するまで一週間の期間があったので仕事を休み、僕が話した「何にもできないと決めつけないで、できるかもしれないと考えて、いろいろなことをする機会をつくり、時間をかけて待ち、少しだけ手伝うようにすると、見違えるお母さんになると思いますよ」を試してみたそうです。

 

そうしたら自分が思い込んでいた「できない母親」とはまるで違って、着替え、歯磨き、身なり、身の回りの片づけ、買物、お金の支払い、調理、掃除、洗濯、入浴といった日常生活行為のほとんどのことを、少し手助けするだけで行うことができ、生き生きとした表情を表出するようになり、数日後にはまるで別人になったようで驚いたと言われました。

 

「これだったら施設に預ける必要がないと思いました。でも、ずっと私がついて、和田さんから教わったようにアドバイスをしたり手はずを整えたりしなければ一人ではできなかったので、期間限定だからできたことです。介護事業所は何でもしてくれるところと思いこんでいましたが、和田さん曰くホテル型の介護事業所に入居していたら、こうした母親の姿を二度と見ることはできなかったと思います」とも言われました。

 

どこの入居型の介護事業所も介護保険制度によって運営されていれば同じ(支援)はずなのですが、入居する事業によって、事業者(法人)によって、事業所によって随分と違いがでてきています。

自宅での生活が難しくなった後、要介護状態にある身内がどんな姿で生きることを望むか、それはとても大事なことですが、そこを描けていない方が多いですね。また、自宅で暮らすよりも介護事業所に転居した方が生き生きしているという家族等の話も紹介しますが、それも入居する介護事業所次第だとも話します。ご参考にしていただければと思います。

 

我が家にやってきました「この御方」
グループホームの入居者に見ていただくとトメさん(仮名)が「この人、着物じゃないね、洋服だね」・・・
トメさん、何でもすぐに忘れるお方ですが、我が国トップ紙幣万札の図柄はくっきりと憶えているんでしょうね。
今しばらくは、あちこちで話題をさらっていくことでしょうし、新しく家が建ちだすと「以前、ここに何があったか」を思い返せないように「この人の前は誰だっけ」となる日がくるんでしょうね。

  

このたび<CareTEX東京’24【夏】>の専門セミナーに登壇します。
僕の登壇は30日10時です。
良かったら来てやってください。

会期:2024年7月30日(火)~8月1日(木) 9:30~17:00
会場:東京ビッグサイト 東4ホール
主催:ブティックス(株)
受講料:無料(事前申込制)

セミナー情報の詳細、受講申込はこちらから
https://summer.caretex.jp/info/conference2024
セミナーに関するお問合せ:CareTEX事務局(TEL:03-3868-0901

 

和田 行男 さん

1987年、日本国有鉄道から介護業界へ転身。1999年には、東京都初となる認知症高齢者グループホーム「こもれび」の施設長に就任した。