認知症の方が突然「家に帰りたい」と言い出した場合、家族はどうしたら良いのか分からず非常に困るでしょう。
また、その症状は認知症の帰宅願望だと知っていますか?
今回は、認知症の帰宅願望が起こる原因をご紹介した上で、帰宅願望が出たときの対応法をご紹介します。
- 帰宅願望が起こる原因
- 帰宅願望の対応方法
この記事をご覧いただき、認知症の方の帰宅願望について知るための参考にしてください。
ぜひ最後までお読みください。
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認知症の方の帰宅願望とは
ここからは認知症の中核症状・周辺症状をご紹介した上で、帰宅願望についてもご紹介します。
中核症状
認知症の中核症状にはいくつかの症状があるので、代表的な中核症状を3つご紹介します。
記憶障害
認知症の症状の中でも早い段階からみられる症状が記憶障害です。
物事を忘れるだけではなく、新しいことを覚えるのも困難になります。
初期では比較的新しい記憶である短期記憶が失われますが、進行する数年前など過去の出来事の記憶も失われます。
見当識障害
見当識障害は、「時間」「場所」「人」を認識できなくなる症状です。
「日付や曜日」「季節」「自分がいる場所」「話している相手」などが分からなくなります。
最初は時間の見当識障害が起こり、次第に場所や人の見当識障害が現れます。
最終的には身近な存在である家族のことも正確に認識できなくなり、娘を母親と思い込むなど関係性を間違えるようになります。
理解力・判断力の低下
理解力・判断力の低下が起こると物事を理解するまでに時間がかかり、正確な判断ができなくなります。
そのため、2つ以上のことを同時に行うことが困難になったり、他人との会話についていけなくなります。
また、物事の良し悪しや善悪の判断ができなくなります。
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周辺症状
周辺症状とは中核症状が元となって起こる症状です。
周辺症状は、認知症の方の性格や置かれている環境などによって個人差があります。
ここからは、認知症の周辺症状の中でも代表的な症状を3つご紹介します。
徘徊
見当識障害や記憶障害などが原因となり、絶えず歩き回る徘徊が起こります。
周囲の人はただ目的もなく徘徊しているように思えますが、認知症の方には本人なりの理由や目的があります。
そのため、外出をしようとする際に引き止めることが非常に困難です。
物盗られ妄想
物盗られ妄想は記憶障害により自分が物を置いた場所を忘れることで、誰かに「盗まれた」と思い込む妄想です。
自分が置いたこと自体を忘れているので、自ら探そうとはしません。
介護をする時間が長い家族や介護スタッフなどが「加害者」にされやすいのが特徴です。
無気力・無関心
認知症によりできないことや分からないことが増え、何に対しても無気力・無関心状態に陥ります。
周囲のことだけではなく、自分の身の回りのことへも興味や関心が薄れます。
以前は綺麗好きだった方がお風呂に入らなくなったり、服装に気を配らなくなるなどの状態になることがあります。
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帰宅願望の症状
認知症の周辺症状には、「家に帰りたい」と訴える帰宅願望があります。
また、「家に帰りたい」と訴えるだけではなく、実際に外へ出て行ってしまうこともあります。
自宅にいても「家に帰りたい」と言い出したり、以前住んでいた家に帰ろうとするなどの行動がみられます。
以前住んでいた家に帰ろうと外出することで迷子になったり、自宅へ戻ることができなくなり、結果的に徘徊へと繋がります。
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認知症による帰宅願望が起こる原因について
では、一体なぜ帰宅願望が起こるのでしょうか。
ここからは、帰宅願望が起こる原因を3つご紹介します。
時間を理解できていない
認知症の方が「家に帰りたい」と訴えるのには理由があります。
たとえば、「家族の夕飯を作らなければいけない」「戸締りをしなければいけない」などです。
しかし、時間を理解できていないと、朝にも関わらず「家に帰って夕飯の準備をしなければ」と訴えるといったことが起こります。
今いる場所を理解できていない
場所の見当識障害により、今自分がいる場所を理解できないことで起こる場合があります。
家族は自宅が安全な場所だと思っていますが、場所を理解できない認知症の方にとっては知らない場所です。
誰しも知らない場所に不安や恐怖を抱くように、認知症の方も不安や恐怖から「帰りたい」と訴えるようになります。
認知症の方が安心できるような環境づくりを心がけましょう。
受け入れられない
認知症の方が施設介護をされている場合、自分が介護されることを受け入れられないという理由で、帰宅願望が現れることがあります。
また認知症の方は、できないことが増えたもどかしさや、体の不快感を上手く伝えられないことで不安やストレスを感じやすくなります。
さらに、認知症の方は新たな変化が苦手であるため施設への入居によって余計にストレスを感じやすくなります。
このように、様々なマイナス感情が加わることと、自分が介護をされるという状況を余計に受け入れられないのです。
認知症による徘徊に注意
帰宅願望はただ帰宅を訴えるだけではなく実際に外出してしまうことから、徘徊に注意が必要です。
ここからは、徘徊の問題点と対策をご紹介します。
徘徊の問題
家の中で徘徊が起こる場合であれば、安全対策を取れば問題はありません。
しかし、実際に外出してしまうとなると事故や事件に巻き込まれたり、行方不明などのリスクがあります。
また、認知症の方が他人に危害を加えてしまう可能性も否定できません。
認知症の方が自力で自宅に戻ることは非常に困難であり、周囲に助けを求めることも難しいです。
一度外出してしまうと家族が見つけるのにも時間がかかる可能性があるので、徘徊対策は必ず必要です。
徘徊への対策
ここでは、徘徊の対策について詳しくみてみましょう。
玄関にセンサーやベルの設置
徘徊への対策の1つ目は、玄関に徘徊を知らせるためのベルやセンサーを付けることです。
玄関にベルやセンサーを付けることで家族がすぐに気付くことができるでしょう。
認知症の方が知らないうちに外出してしまうと、発見まで時間を要する可能性があります。
なので、事前に外出を知らせる工夫をしておけば、万が一外出してもすぐに対応できるはずです。
GPSを持たせる
徘徊への対策の2つ目は、GPSを持たせることです。
GPSは現在地を特定することができるので、たとえ外出してしまったとしても早期発見に繋がります。
認知症の方のGPSには時計や靴、ブレスレットなどに内蔵されているものがあります。
認知症の方が体に身に付けることを嫌がる場合は、GPSが内蔵された靴がおすすめです。
このように気軽に徘徊対策が行えるので、しっかり対策して徘徊が起こった時に困らないようにしましょう。
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認知症による帰宅願望はどんな時に出やすいの?
帰宅願望が出やすい時間は、男女で異なります。
ここからは、帰宅願望が出やすい時間帯を男女別でご紹介します。
男性
男性の認知症の方で帰宅願望が起こりやすい時間は朝です。
以前仕事に行っていたことが習慣になっているため、朝になると「仕事に行く」と言い準備を始めることがあります。
女性
女性の認知症の方で帰宅願望が起こりやすい時間は夕方です。
特に専業主婦だった方は、家族の夕食を作ることが習慣になっています。
そのため、「家に帰って夕食の準備をしなければ」と言い、帰宅願望が出やすいのが特徴です。
このように男女で帰宅願望が出やすい時間は変わってくる事を覚えておきましょう。
帰宅願望が出た時の対応法
では、認知症の方に帰宅願望が出た場合はどのように対応すれば良いのでしょうか。
ここからは、帰宅願望が出たときの対応法を3つご紹介します。
間違いを否定しない
たとえば、認知症の方が「家族の夕食を作るから帰りたい」と訴えたとします。
そこで、「家族の夕食を作る必要はありません」と間違いを否定してはいけません。
間違いを否定することで、認知症の方を混乱させてしまうからです。
「家族の夕食を作るから帰りたい」と言われた場合、否定するのではなく「夕食は準備されているので大丈夫ですよ」と伝えましょう。
認知症の方が帰らなくても問題ないことを伝えてあげることが、不安解消に繋がります。
問題視しない
認知症の方の帰宅願望を「おかしい」「異常」などと問題視することは決して良いこととは言えません。
認知症の方が「家に帰りたい」と訴えるのには本人なりの理由があります。
自分のいる場所が分からないことで、今いる場所が「知らない場所」になります。
知らない場所にいれば、誰しも不安や恐怖心を抱くはずです。
そのため、認知症の方の帰宅願望を問題視するのではなく、どうしたら不安を取り除いてあげられるかを考えることが大切です。
間違っても無理に抑制したり、責めるなどの行為は避けてください。
習慣に注意する
先ほど男性は朝、女性は夕方に帰宅願望が出やすいとお伝えしました。
そして、それは体に染み付いている習慣から起こるものです。
認知症の方が習慣的に何か行っている時間帯は特に混乱が起こりやすいです。
そのため、認知症の方の習慣に注意をし、混乱しやすい時間が近づいてきたときは「今日は会社がお休みです」「夕食は娘さんが作ってくれますよ」などと声をかけましょう。
環境の調整も重要
認知症の方に帰宅願望があらわれる要因に環境があります。
環境は、家や施設の空間だけでなく人間関係も含みます。
どうすれば、今いる場所で不安や孤独を感じずに暮らすことができる環境を調整できるかが大切です。
環境を調整するために以下のような対処方法があります。
- グループ・人数を調整する
- 落ち着ける環境作りを行う
- 席の場所を調整する
- 馴染みのあるものを置く
- 居室環境を整える
- 屋外環境を整える
それぞれの内容についてご紹介します。
グループ・人数を調整する
認知症の方は、施設などで多くの人と接すれば接するほど情報量が大きくなり混乱をきたすことがあります。
グループや人数を調整することで、情報量(人数)の調整を行います。
グループや人数の調整を行う場合には、配慮すべき以下のようなポイントがあります。
- 気の合う利用者同士が話しを肯定的に聞きあえる場
- 仲の良い人と同じテーブルに集まり一緒に過ごせる場
落ち着ける環境作りを行う
帰宅願望が起こる一番の要因は「ここにいる理由や目的がわからない」ことにあります。
夕方になり周りがあわただしくなっても、自分はここに居てもいいと思える場所があることが大事です。
「自分はここで必要とされている」と安心し落ち着ける環境作りが、帰宅願望の介護には必要です。
以下のような環境作りが考えられます。
- 落ち着いてゆっくり会話できる場所を設ける
- リビングに専用の場所を作る
席の場所を調整する
認知症の方の席の場所を調整することも、帰宅願望の介護の大事な環境作りになります。
席の場所の調整は、認知症の方の目線で「他人の視線を気にせずにゆっくりとくつろぐことができる」場所が良いでしょう。
馴染みのあるものを置く
認知症の方にとって、今までの生活環境が尊重されていることは重要なことです。
「なじみがある」「見覚えがある」ものが置いてあれば、場所の認識や自分がいる意味を見出すことができます。
自宅での生活環境を再現できるようなアイテムを置いたりすることで、帰宅願望の対策に有効な環境作りになります。
居室環境を整える
帰宅願望のある認知症の方は、普段の生活の継続性が断たれることでダメージを受けやすくなります。
施設での暮らしに意味を見いだせるよう、「居室」から「自室」へ認識が変わるような環境を整えることが必要です。
タンスや椅子などの私物の持ち込みや、自宅の部屋の写真を飾るなどの工夫が変化によるダメージの軽減につながります。
屋外環境を整える
外出を無理に制止することは、かえって帰宅願望を強くします。
適度に外に出て気分をリフレッシュすることも大切なことです。
地域の人との交流の機会を設けるなど、地域をフィールドとして認知症の方の生活環境を考えることも重要なポイントです。
認知症の方の帰宅願望まとめ
今回は、認知症の方の帰宅願望についてご紹介しました。
認知症の方の帰宅願望についての要点を以下にまとめます。
- 帰宅願望は、時間や今いる場所を理解できていないことが原因となって起こる
- 帰宅願望が原因で外出し、徘徊に繋がる危険性があるため注意が必要
- 徘徊への対策には、玄関にベルやセンサーを付けることやGPSを持たせるなどがある
- 帰宅願望は男性の場合朝に出やすく、女性の場合は夕方に出やすい
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。