些細なことがきっかけとなる介護現場での事故。
歳を重ねるにつれて思うように体が動かず、事故につながるケースも多くみられます。
しかし、本人の過失だけでなく介護職員の不注意によって起こることも少なくありません。
今回は介護現場における事故について、詳しく解説していきます。
- 主な介護事故の種類
- 介護事故が起きやすいのはどのような場面か
- 介護事故の対応・予防方法
介護ロボットを利用することによる効果も解説しています。
ぜひ最後までご覧ください。
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介護事故の主な種類
※画像はイメージです
介護現場での事故は、主に3種類に分けられます。
- 転倒・転落・滑落
- 誤嚥・誤飲・むせこみ
- 訪問介護での紛失・破損
上記の介護事故を順番に解説します。
転倒・転落・滑落
2018年、公益財団法人介護労働安定センターが『介護サービスの利用に係る事故の防止に対する調査研究事業』という報告書を発表しました。
報告書によると、調査年に厚生労働省に重大事故として報告のあった事例のうち、実に65%以上が転倒・転落・滑落に該当するものでした。上記事例の事故発生後、70%以上の方が骨折、19%程の方が合併症などによって亡くなったという結果も出ています。
介護職員がほんの少し目を離したタイミングであったり、他の入居者の方を見ているときであったりと、日常生活での事故が多く見られます。
出典:公益財団法人「介護サービスの利用に係る事故の防止に対する調査研究事業」報告書
誤嚥・誤飲・むせこみ
転倒・転落・滑落に続いて報告の多い事故原因です。
主に食事介助の際に起こります。
事故の種類 | 原因 |
誤嚥 | 食材をうまく飲み込めず、胃ではなく気管等に流れること |
誤飲 | 食材以外を誤って飲み込むこと |
むせこみ | 食べるスピードが早すぎる等によって起こる |
利用者の方の状況をしっかりと把握し、それぞれに合った硬さ・形状になっているかを注意深く見る必要があります。
普段は食べることができる食事内容でも、むせこんでしまった場合はすぐに食事を再開することは好ましくありません。
一度、看護師に診てもらうなどの配慮が必要です。
訪問介護での紛失・破損
主に訪問介護サービスにおける事故です。
事故の種類 | 原因・場所 |
紛失 | 買物用に預かっていたお金をなくすなど |
破損 | 預かった眼鏡を壊すなど |
命にかかわることではなくとも、利用者側から損害賠償を請求されることもあります。
利用者の方の命を守ることだけでなく、大切なものも含めてしっかりと把握・管理していくことが大切です。
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介護事故が起きやすい場面
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介護現場では様々な種類の事故が起きやすいことが分かりました。
では、どのような場面で介護事故が起きるのか、見ていきましょう。
移動や移乗のとき
- ベッドから車いすへの移乗時の転倒
- 玄関先・事業所送迎時・外出先でのつまずき・転倒
- トイレ・浴室への移動介助時の転倒・尻もち
- ちょっとした段差でつまづき、転倒
食事のとき
- 食事をする事業所での転倒
- 口内の火傷
- 座っている状態からの転倒・尻もち
- 薬の飲み間違い
排泄のとき
- トイレ内での方向転換時にバランスを崩し転倒
- 手すりをうまくつかめず転倒・尻もち
- 室内の備品に体をぶつけて転倒
- 認知症の方の排泄物誤食
入浴のとき
- 脱衣所での衣類着脱時の転倒・尻もち
- 浴槽内でおぼれる
- 浴室内の椅子から転落
- 体を洗う際の擦り傷
- 入浴時の体温・血圧上昇によるヒートショック
出典:公益財団法人「介護サービスの利用に係る事故の防止に対する調査研究事業」報告書
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介護事故での対応
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起こすべきではない介護事故ですが、万が一起こってしまった場合にどのような対応をするべきなのでしょうか?
以下の項目に分けて解説します。
利用者への対応
まずは利用者の方に対する速やかな安全確保が大切です。
以下の項目をチェックしてください。
- 外傷があれば応急処置
- 食べ物を詰まらせた場合はタッピング(手のひらを丸くし、背中全体を軽くたたく)
- 心拍・呼吸の確認
- AED(除細動器)の使用
必要であれば病院を受診するといったことも重要です。
家族への対応
利用者の方の安全確保後、速やかに家族の方と連絡を取ります。
以下の項目に注意して対応しましょう。
- 事業所責任者と担当職員がご家族と面会
- 事故の原因を包み隠さず話す
- 対応への連絡窓口・話し合いの姿勢を明確にする
- 事故対応に関しての線引きを明確にする
あいまいな返答をすると、ご家族は事業所に対して不信感を抱きます。
対応スピードは維持しつつ、一貫した対応が重要です。
「全ての責任はこちらにあります」といった発言も好ましくありません。
裁判になった場合、施設側が不利になります。
人によっては「治療費をすべて払うとサインするように」といった内容の書面を持ち出してきて、施設側に責任を押し付けようとする方もいます。
責任を感じているからといって安易に署名してしまうと、後々になって後悔することになります。
関係機関への連絡
重傷事故が起こった場合は、速やかに警察や各自治体に連絡をしましょう。
事故の原因が職員の過失によるものだった場合、業務上過失致傷案件として刑事事件に発展する可能性があります。
事業所によっては、事故の原因を隠蔽するところもあるかもしれません。
しかし、事故など隠しきれるわけがなく、情報はすぐに漏れます。
隠蔽しようとしていたとなると、行政指導の対象となるなど更なる厳しい処分が課せられることになるでしょう。
事故の記録を行う
関係各所に連絡後、事故の状況を把握するために記録を行います。
具体的には以下の内容です。
- サービス提供体制に不備はなかったか
- マニュアルに不備はなかったか
- 教育体制はしっかりととれていたか
- 職員の疲労・健康状態に問題はなかったか
事故の記録は、再発防止に繋がる材料となります。
また、利用者の方やご家族から損害賠償を求められた際、事業所側の落ち度の有無を示す資料として重要な役目を果たします。起こってしまった事故を最小限にするための危機管理には、事故の記録は欠かせないものです。
『5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)』に加え、時間もできる限り正確に記録します。
例として「9時ごろ」という言葉では、8時50分なのか、9時10分なのかが不明瞭です。
そのため、できるだけ詳しく分単位で記入するようにします。
誰が読んでも同じ場面を想像できるような客観的な書き方をすることが、事故の記録を残す際の重要なポイントです。
事故報告書をかく
事故報告書は、介護事故が起きた際に書く必要がある報告書です。
しかし、法律で決まっているからという理由だけで書くわけではありません。
事故報告書を書く目的、提出先などを解説していきます。
事故報告書の目的
事故報告書を書く目的は、主に以下の3つです。
- 同じ事故を繰り返し起こさないようにするため
- 事故を共有し、職員全員で把握するため
- いつでも情報開示できるようにしておくため
多くの事故原因は、介護職員だけによるものではありません。
事業所や施設自体に問題があることも考えられます。
原因の分析をすることで、過去の同じような報告とも照らし合わせることが可能です。
その結果、より効果の高い再発防止策を打ち出すことが可能となるでしょう。
事故報告書の提出先
事故報告書の提出先は、事故の当該利用者の方の保険者(市区町村)です。
利用者の方の保険者と事業所・施設の所在地が異なる場合は、事業所・施設の所在地である市区町村にも併せて報告しましょう。
事故報告書の様式
令和2年12月に行われた「令和3年度介護報酬改定に関する審議報告」で予告されていた、厚生労働省の事故報告書の様式が公開されています。
厚生労働省は、当様式で事故報告の将来的な標準化による情報蓄積および有効活用を検討しています。
そのため、自治体の様式を使用する際は、厚生労働省の様式項目を含めることと記しています。
参考: 介 護 保 険 最 新 情 報 Vol.943 令和 3 年3月 19 日
介護事故での間違った対応法
介護事故が起きた際に、これだけはやってはいけないという対応が2つあります。
- 事故が起こったことを報告しない
- 事故を隠蔽する
起こった事故は、大小関わらず必ず報告することを心がけましょう。
個人で解決したつもりでも、のちに大きな問題となる可能性もあります。
また、評判悪化や責任逃れのための隠蔽も許されません。
隠蔽の事実が発覚した場合は、正直に報告した以上のペナルティが課せられます。
利用者の方はもちろん職員や施設自体を守るためにも、偽りない事故報告を行いましょう。
介護事故の予防対策
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どんなに気を付けていても起こりうる介護事故ですが、工夫によって未然に防ぐことができる場合もあります。
介護事故の予防対策について説明します。
ルールや仕組みを見直す
どれだけ注意しても、ヒューマンエラーを完全になくして不測の事態を予知し防ぎきることは不可能です。
しかし、できるだけ事故を起こさないようするためにマニュアルを作成したり、スタッフに意識するよう呼びかけたりすることはできます。
事故の分析と原因究明
事故の記録を行い、なぜ起こったかを正確に把握することによって、同じような事故を減らすことができます。
- 当介護事故が起きた原因
- どのような対応をしていれば防ぐことができたか
- 今後どのように改善するべきか
それぞれをしっかりと分析・検証し、再発防止案を全職員で共有しましょう。
情報共有
利用者の症状や状態を各職員が把握・共有することにより、担当職員が不在の場合でも対処できるような仕組み作りが大切です。
事故当時に現場に居合わせた担当職員だけではなく、まわりの職員が「自分にできることはなかったのか」を改めて考え、施設全体で再発防止に努めることが重要といえます。
ヒヤリハットを記録する
事故につながったかもしれない危険な状況を「ヒヤリハット」と呼びます。
労働災害に対するケガの程度を分析するハインリッヒの法則によると、「1件の重大事故の背景には、29件の軽微な事故、300件のケガにならない事故がある」といわれています。
ヒヤリハットを書き出し、全職員が常に報告・共有をしていく仕組みづくりと、その情報を事故防止につなげていく意識を持つことが大切です。
また、他人のミスを必要以上に責める人がいますが、そんな環境だと誰もミスを共有しなくなります。
その結果、ヒヤリハットを把握できず、大きな事故につながります。
常日頃から仲間同士で助け合うことが、介護事故を減らすキッカケになるでしょう。
介護ロボット導入で事故減少?
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超高齢化社会の日本において、介護ロボットの需要はますます高まっています。
厚生労働省のデータによると、介護現場での負担軽減・介護の質向上のために介護ロボットを導入したことで介護事故が減少したという結果がでています。
【実証研究期間中のヒヤリハット・介護事故件数の推移】
期間 | 件数 | |
事前調査 | 5/22~6/11 | 9 |
事後調査1回目 | 6/12~7/2 | 7 |
事後調査2回目 | 7/3~7/23 | 5 |
事後調査3回目 | 7/24~8/13 | 0 |
事前調査では9回だったものが、事後調査3回目では0回との報告があがっています。
介護ロボットは、事故防止に大いに貢献しているといえます。
職員への聞き取り調査からも肯定的な意見が多く、介護の質の向上にも繋がるという面からも積極的な導入が期待されています。
出典:厚生労働省「介護ロボットの導入支援及び導入効果実証研究事業」報告書
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介護事故のまとめ
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ここまで、介護事故の原因や予防策について説明してきました。
- 介護事故で最も多いのは、転倒・転落・滑落である
- 介護事故が起きやすい場面は、移動・移乗・食事・排泄・入浴などの日常動作
- 介護事故の対応・予防方法は、誠意ある対応をした上で、事故の原因究明と再発防止のための事故の記録を残すこと
これらの情報が皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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