介護福祉士を目指すならば、医療行為についての知識は欠かせません。
その知識の習得のうえでポイントとなるのは、何が医療行為に該当し、何がそうでないのかという線引きを理解することです。
今回の記事では、以下の内容を中心に解説していきます。
- 介護福祉士ができる医療行為
- 介護職員ができない医療行為
- 介護職員に医療知識が求められるようになった背景
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医療知識を身につけて介護の仕事でステップアップを目指すことについても解説していますので、ぜひ最後までお読みください。
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医療行為と医療ケアの違いは?
まず知っておくべきことは、介護福祉士や介護福祉士以外の介護職員では原則として医療行為を行うことができないという点です。
以前の介護現場では医療行為の範囲に関してグレーな部分がありましたが、制度上の整理が進み「原則として医療行為ではないと考えられるから介護職員が実施できるケア」「医療行為ではあるが介護職員でも実施ができるケア」などの位置づけが成立しました。
これら(特に後者の介護職でも実施ができる医療行為)について医療ケアという言い方をします。
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介護福祉士は医療行為ができる?
介護福祉士が医療行為をできるかに関しては、2つの回答があります。
1点目は逆説的な言い方になりますが、介護現場での医療行為に関するグレーな部分について「医療行為ではない」と示されたものについては実施できるという回答です。
2点目は法律上、一定条件のもとで実施できる医療行為と定められたものは実施できるという回答になります。
以下、詳しく見ていきましょう。
医療行為の対象ではない行為
厚生労働省通知(2005年)にて、介護現場で原則として医療行為ではないと考えられる具体的行為が明示されました。
医療行為ではないということですから、介護職員が実施できる行為になります。
医療行為の対象ではない行為として示されているのは以下の5項目です。
- 体温測定
- 自動血圧測定器による血圧測定
- 動脈血酸素飽和度を測定するためのパルスオキシメータ装着
- 軽微な傷(切り傷、擦り傷、やけど等)の処置
- 医薬品の使用の介助(皮膚への軟膏の塗布、点眼薬の点眼、一包化された内用薬の内服、肛門からの坐薬挿入、鼻腔粘膜への薬剤噴霧)
規制対象外の医療行為
また、この通知では医師法、歯科医師法、保健師助産師看護師法での規制の対象とする必要がないという医療行為についても示されています。
この行為も介護職員により実施できる行為という位置づけになります。
規制対象外の医療行為として示されているのは以下の6項目です。
- 爪切り
- 歯ブラシや綿棒等による口腔ケア
- 耳垢の除去
- ストマ装具のパウチにたまった排泄物を捨てる
- 自己導尿の補助
- 市販のディスポーザブルグリセリン浣腸器を用いた浣腸
介護福祉士ができる医療行為
2011年には「社会福祉士及び介護福祉士法」の一部改正が行われました。
そして翌年4月より喀痰吸引と経管栄養が、医療行為ではあるものの一定の要件のもと介護福祉士(介護福祉士以外の介護職員を含む)でも実施できるケアと位置づけられました。
喀痰吸引や経管栄養は、この法改正以前も介護職員による実施(在宅の患者・障害者、特別支援学校の児童生徒、特別養護老人ホームの利用者を対象)が当面のやむを得ない措置として例外的に認められてきました。
この法改正で、広く介護施設等において一定の知識・技術を修得した介護職員による実施が解禁されたと言えます。
この法律のなかで介護福祉士が、介護福祉士の名称を用いて専門的知識及び技術をもって実施する介護には喀痰吸引等を含むと明確に書かれています。
介護福祉士ができる医療行為は具体的には以下の5項目です。
- 口腔内の喀痰吸引
- 鼻腔内の喀痰吸引
- 気管カニューレ内部の喀痰吸引
- 胃ろう又は腸ろうによる経管栄養
- 経鼻経管栄養
平成29年より3年の実務経験を経て、介護福祉士を目指す場合に実務者研修の修了が義務付けられました。
この実務者研修のカリキュラムの中で、喀痰吸引や経管栄養について学習(講義+演習)することとなっています。
介護福祉士に合格後、さらに勤務先や研修機関で実地研修を受けることで喀痰吸引等の業務ができるようになります。
介護職員ができない医療行為は?
医療行為であるがゆえに介護職員が実施できない行為についても把握しておくことが重要です。
摘便、インスリン注射、血糖測定、床ずれの処置、点滴の管理は医療行為なので、介護職員が行うことは違法行為になります。
さきほど医療行為の対象ではない行為、規制対象外の医療行為と示したものについても個々の状況や状態によっては医療行為と判断される場合があるので注意が必要です。
例えば医薬品の使用の介助に関しては、内用薬での誤嚥の可能性や坐薬での肛門からの出血の可能性があります。
専門的な配慮が必要ということであれば医療行為となり、介護職員が実施することはできません。
また、爪切りを介護職員が実施できるのは爪の周囲の皮膚に化膿や炎症がなく、かつ、糖尿病等の疾患に伴う専門的な管理が必要でない場合に限られます。
このように専門的な管理や配慮が必要ということになれば医療行為と判断されます。
介護職の方が医療知識を覚える意味は?
一部の医療行為は介護職でも実施できるようになりましたが、実施に際しては研修で学ぶことが条件となっており、知識や技術の習得が求められています。
原則的に医療行為の対象ではないから介護職で実施できるとされた行為についても、専門的な管理や配慮が必要かどうかを個々の状況に応じて見極めるスキルが求められます。
介護現場で正しい判断や、適切なケアを行うためには、従来グレーとされていて整理が進んできた医療行為について関連する医療知識も含めて理解を深めておくことが重要です。
また、介護福祉士以外の介護資格について知りたい方はこちらをご覧ください。
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もし医療行為の実施を求められたら?
何が医療行為や何が介護職員が実施できる行為かについて利用者や家族が把握しているとは限りません。
インスリン注射など、介護職員には実施ができない医療行為を求められることもあるかもしれません。
そのときは、医師や看護師に連絡して対応をしてもらう必要があります。
日頃からの連携の体制の確立が大事になってきます。
医療知識をもつ介護福祉士になるために
介護職員にも医療知識が求められていることは確認できたと思います。
医療行為を日常的に受けながら生活をしている利用者を介護職として支援するための知識や技術を身につけることはキャリアの幅を広げるとも言えるでしょう。
医療に関する専門的な知識や介護技術を身につけた介護福祉士を育成することを目的として設けられた医療介護福祉士という民間資格がありますので、以下、説明していきます。
医療介護福祉士の役割とは?
医療介護福祉士はチーム医療の一員として活躍できる介護福祉士の育成を目的としています。
医療介護福祉士には、医療ニーズの高い利用者を支援する介護現場で、医師、看護師など他職種と連携をとりつつ利用者の日常生活を支えることが求められます。
医療介護福祉士の仕事とは?
医療介護福祉士に認定されても医療行為はできないですし、医療行為につながる判断をすることもできません。
一方で医師、看護師がその判断をするにあたりに必要な情報をいち早く入手できるのが介護職員と言えます。
日々利用者と関わり、観察(アセスメント)をし利用者の細かい変化に気づくことができるのが介護職員の強みです。
医療に関する専門的な知識を身につけていれば、アセスメントの質が上がると期待できます。
医療による専門的な管理に配慮しつつ留意事項をクリアしながら、利用者の質のある日常生活を実現していくことも医療介護福祉士ならではの重要な仕事です。
医療介護福祉士のメリット
国家資格ではないとは言え、医療介護福祉士を取得したという経歴は、ステップアップの意思や医療ニーズの高い利用者の支援への関心を周囲に伝える材料になります。
資格はキャリアと結びつけてこそですが、医療ニーズの高い利用者を支援する介護現場を見つけ、身につけた知識や技術を武器に飛び込むことで新しいキャリアの可能性が広がると考えられます。
案外、今の職場のなかにもそういうチャンスがあるかもしれません。
医療介護福祉士のデメリット
医療介護福祉士は民間資格であるため、資格を保有しているだけで給与が上がるというものではありません。
2010年にスタートした比較的新しい資格制度でもあり、広く認知されているとも言えません。
しかし、今後、医療ニーズの高い高齢者は増えていくと予想されており、十分な医療知識を持った介護福祉士の需要が高まっていくと考えられます。
介護福祉士からのスキルアップを検討している場合は一つの選択肢として検討してみると良いでしょう。
介護福祉士と医療行為のまとめ
これまで、主に介護福祉士ができる医療行為、介護職員ができない医療行為、医療知識をもつ介護福祉士というテーマで説明してきました。
この記事のポイントをおさらいすると以下の通りです。
- 介護福祉士ができる医療行為は、口腔内の喀痰吸引、鼻腔内の喀痰吸引、気管カニューレ内部の喀痰吸引、胃ろう又は腸ろうによる経管栄養、経鼻経管栄養の5項目
- 介護職員が行うことができない医療行為は摘便、インスリン注射、血糖測定、床ずれの処置、点滴の管理等
- 今後、医療ニーズの高い高齢者は増えていくと予想されており、十分な医療知識を持った介護福祉士の需要が高まっていくと考えられる
これらの情報が少しでも皆様にお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。