高次脳機能障害になると、日常生活に支障をきたすことがあります。
症状を和らげるためには、自分自身が高次脳機能障害なのかそうでないかを知り、適切な対処をすることが重要です。
本記事では、高次脳機能障害と診断されるかどうかの基準と高次脳機能障害の症状を中心に以下の点を紹介します。
- 高次脳機能障害の原因
- 軽度な高次脳機能障害の症状
- 高次脳機能障害診断基準
- 高次脳機能障害の方が受けられる支援
高次脳機能障害の症状を見落とさないためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
高次脳機能障害について興味がある方は下記の記事も併せてお読み下さい。
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高次脳機能障害とは
高次脳機能障害は、脳の外傷や損傷などにより発症する障害です。
高次脳機能障害者は女性よりも男性の方が多く、また年代別では60歳以上の方がおよそ67.2%と報告されています。(東京都福祉保健局による高次脳機能障害者実態調査結果)
脳の機能が低下し記憶や物事に対する感覚が変化したり、感情や行動の制御が難しくなったりするなどの症状がみられます。
重度の場合は症状が顕著に現れるため、日々の生活で気づいてもらえることが多いといえます。
しかし、症状が軽度だと発症した方のアイデンティティーとして捉えられ、高次脳機能障害として他の人に認識してもらえないことがあります。
また、最悪の場合本人でさえ気づかないことがあり、徐々に日常生活が困難になってしまう方もいます。
高次脳機能障害の症状について詳しく知りたい方は下記の記事も併せてお読み下さい。
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高次脳機能障害の原因
高次脳機能障害の原因は、主に「脳血管障害」「外傷性脳損傷」といわれています。
その他の原因も含め解説していきます。
脳血管障害
脳血管障害とは脳卒中ともよび、脳の血管が破けるまたは詰まるなどしてその先の細胞に栄養が届かなくなったことによる脳の働きの障害を指します。
脳血管障害は脳の血管が詰まるタイプ(脳梗塞・一過性脳虚血発作)と脳の血管が破れるタイプ(脳出血・くも膜下出血)の大きく2種類のタイプで別れています。
脳血管障害により高次脳機能障害を発症するリスクは、通院患者調査(東京都福祉保健局による高次脳機能障害者実態調査結果)から全体のおよそ81.6%を占めると報告されています。
さらに60歳以上では脳血管障害者が全体のおよそ89.9%を占める割合であると報告されています。
外傷性脳損傷
外傷性脳損傷とは、転落や交通事故などで頭部に外からの強い力が加わり、頭部に関係する部位組織が損傷することの総称です。
外傷性脳損傷により高次脳機能障害を発症するリスクは、通院患者調査(東京都福祉保健局による高次脳機能障害者実態調査結果)から全体のおよそ10.0%であると報告されています。
その他の原因
「脳血管障害」「外傷性脳損傷」以外に挙げられる原因は以下の通りです。
- 急性脳症(インフルエンザから発症)
- 低酸素性脳症(先天性疾患・不整脈・心筋症から発症)
- 脳腫瘍
高次脳機能障害の原因について詳しく知りたい方は下記の記事も併せてお読み下さい。
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軽度な高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害には多くの種類の症状があります。
ここでは高次脳機能障害の中でも軽度の各症状について紹介します。
記憶障害
記憶障害とは、物事の記憶に関する障害です。
具体的な症状はいくつかあり、以下の通りあげられます。
- 繰り返し説明を聞いてもすぐに同じことを尋ねてしまう
- 物の置き場所を忘れてしまう
- できていたことができない、または新しいことが覚えられない
- 人の顔が覚えられない、または忘れてしまう
注意力障害
注意力障害とは、集中力・注意力に関する障害です。
具体的な症状はいくつかあり、以下の通りあげられます。
- テレビに気を取られ食事が終わらない
- ボーっとすることが多くよく失敗する
- 一つの作業が集中して行えない
- 二つのことを同時進行ですると混乱する
遂行機能障害
遂行機能障害とは、計画と実行に関する障害です。
具体的な症状はいくつかあり、以下の通りあげられます。
- 段取りをつけることができず、時間通りに処理できない
- 待ち合わせ時間に遅刻してしまう
- 人に指示してもらわないと何もできない
- 約束を決めても守れない、または間に合わない
- 物事を最後まで行うことができない
社会的行動障害
社会的行動障害とは、対人または大衆の前での感情や行動の振る舞いに関する障害です。
具体的な症状はいくつかあり、以下の通りあげられます。
- 少しのことで感情が爆発する(イライラする)
- 興奮して暴力を振るう
- うまくいかないと大声を出してしまう
- 自己中心的な性格になる
その他の障害
前述した高次脳機能障害の症状の他にもそれに準ずる種類はいくつかあり、以下の通りあげられます。
- 半空間無視…どちらか左右の空間に意識がいかずぶつかるまで障害物に気が付かない
- 失行症…箸・ハサミ・リモコンなどの使い方がわからなくなる
- 失認症…顔の形だけでその人が誰か認識できない
- 失語症…単語などの言葉が出てこない、または質問などの言葉が通じない
- 行動と感情の障害…暴力的になったり、泣いたり怒ったり感情的になる
これまでにあげた軽度でもみられる高次脳機能障害の症状に思い当たる節がある方は、かかりつけまたは最寄りの医療機関の医師に相談することをおすすめします。
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高次脳機能障害の診断基準
高次脳機能障害は、症状が多様に存在します。
そこで、厚生労働省によって高次脳機能障害の診断基準が定められました。
その診断基準を以下にまとめます。
Ⅰ.主要症状等
- 脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている。
- 現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である。
Ⅱ.検査所見
- MRI、CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。
Ⅲ.除外項目
- 脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状(I-2)を欠く者は除外する。
- 診断にあたり、受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する。
- 先天性疾患、周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因とする者は除外する。
Ⅳ.診断
- I〜Ⅲをすべて満たした場合に高次脳機能障害と診断する。
- 高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行う。
- 神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。
なお、診断基準のIとⅢを満たす一方で、Ⅱの検査所見で脳の器質的病変の存在を明らかにできない症例については、慎重な評価により高次脳機能障害者として診断されることがあり得る。また、この診断基準については、今後の医学・医療の発展を踏まえ、適時、見直しを行うことが適当である。
高次脳機能障害の診断について詳しく知りたい方は下記の記事も併せてお読み下さい。
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高次脳機能障害の方が受けられる支援
高次脳機能障害の方が受けられる支援にはさまざまな種類があります。
各支援についてそれぞれ紹介します。
障害者手帳
高次脳機能障害の方が受けられる支援に障害者手帳の交付があります。
交付される障害者手帳は、精神障害者保健福祉手帳(等級1級~3級)です。
精神障害者保健福祉手帳は、高次脳機能障害により「器質性精神障害」と診断された方に交付されます。
優遇措置として種類はいくつかあり、以下の通りあげられます。
- 税金の優遇措置(所得税・住民税・相続税などの控除/自動車税・自動車取得税の免除)
- 東京都精神障害者都営交通乗車証の交付(東京都)
- 路線バスの運賃半額割引
- 生活保護の障害者加算(等級1級および2級のみ)
- NTT電話番号案内の無料利用
- NHKの受信料の全額免除または半額免除
- 携帯電話料金の基本使用料・通話料が割引
- 駐車禁止規制からの除外措置(等級1級のみ)
障害福祉サービス
高次脳機能障害の方が受けられる障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスは「介護給付」「訓練等給付」「相談支援や地域活動支援」の3種類があります。
まず「介護給付」では、入浴・排せつ・食事などの支援、あるいは創作的活動・生産活動の機会の提供を行ってくれます。
次に「訓練等給付」では、生活の自立や就労を目指すためのサポートを行ってくれます。
最後に「相談支援や地域活動支援」は、区市町村が地域特性や利用者の状況を踏まえ地域生活支援事業として行う支援活動です。
また高次脳機能障害と診断された方の相談や地域活動に関するサポートも行ってくれます。
介護保険制度による介護サービス
高次脳機能障害の方が受けられる介護保険制度による介護サービスは、ホームヘルプや住宅改修の利用とデイサービスや入所施設の利用があります。
「ホームヘルプや住宅改修の利用」と「デイサービスや入所施設の利用」は、65歳以上で支援や介護を必要と認められた方または、40歳~64歳で脳の外傷による病変や疾病の発症により、要支援・要介護状態になった方が対象になります。
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高次脳機能障害のリハビリ方法
高次脳機能障害のリハビリ(リハビリテーション)方法はさまざまな種類があります。
各方法についてそれぞれ紹介します。
記憶障害のリハビリ方法
記憶障害のリハビリ方法は、物事の記憶に関する障害を改善する方法です。
具体的な方法としては覚えておきたいこと、または説明を受けたことを簡単なメモにして記録することがあげられます。
注意力障害のリハビリ方法
注意力障害のリハビリ方法は、集中力・注意力に関する障害を改善する方法です。
具体的な方法としては以下の3点があげられます。
- 二つのことを同時に行うことをやめ、一つのことに集中する
- 一つの作業が終わるまで別の作業をしない
- 仕事を1日おきにする、または半日だけと決め、休息を取るようにする
遂行機能障害のリハビリ方法
遂行機能障害のリハビリ方法は、計画と実行に関する障害を改善する方法です。
具体的な方法としては以下の2点が挙げられます。
- 手帳やカレンダー・スマートフォンのアプリでメモを取り、スケジュールを記入・確認する習慣を身に付ける
- スケジュールは1日に1つまでとする
社会的行動障害のリハビリ方法
社会的行動障害のリハビリ方法は、対人または大衆の前での感情や行動に関する障害を改善する方法です。
具体的な方法としては以下の2点が挙げられます。
- 感情の高ぶりや衝動的な行動をしてしまった後に、家族や周囲の人と一緒になって考え、意見を交換する
- 抑うつ病や不安症などの精神疾患に適用される認知行動療法を行う
高次脳機能障害のリハビリについて詳しく知りたい方は下記の記事も併せてお読み下さい。
高次脳機能障害という病気を聞いたことがありますか。症状としては認知症と似ている部分もありますが、認知症とはまた異なります。本記事では、高次脳機能障害のリハビリについて以下の点を中心にご紹介します。 高次脳機能障害のリハ[…]
高次脳機能障害は完治する?
高次脳機能障害は薬物療法ではあまり良くならない傾向にあります。
高次脳機能障害の治療は患者の方に合ったリハビリが基本になります。
患者の方に合ったリハビリを行っていくことで適切な回復に導くことが可能です。
リハビリで治療する目的は以下の2つです。
- 損傷を受けていない脳を適切な方法で働かせる
- 損傷部位の代わりになる新しいネットワークを構築する
従ってリハビリはそれぞれの患者の方に合った方法やペースで行うことが大切になります。
それぞれの患者の方に合ったリハビリ内容で行うためには以下の関係者の協力が必要です。
- 医師
- 言語聴覚士
- 作業療法士
- 臨床心理士
さらにリハビリを継続するために家族や職場、学校など周りの方の理解と協力も重要です。
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より詳細な情報を得たい方へ
高次脳機能障害の病気は原因・症状だけをみても、因果関係が幅広く深い知識が無いと対処できません。
また診断基準・受けられる支援・リハビリ方法まで、多くの知識が無ければ適切な処置を行うことができません。
そのため、より詳細な情報を得たい方には、「高次脳機能障害情報・支援センター」の公式サイトより確認することをおすすめします。
また、お困りごとやご相談などに関しては、最寄りの市区町村(自治体)の担当窓口を利用してみてください。
もしくはお住まいの地域の支援拠点機関などの相談窓口でも、サポート対応をしています。
高次脳機能障害の病気を一人で解決することは、とても難しいです。
そのため、医療機関や受けられるサービスを活用しつつ、周囲の方と協力しながら問題を解決していきましょう。
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軽度の高次脳機能障害まとめ
本記事では、高次脳機能障害と診断されるかどうかの基準と高次脳機能障害の症状などを中心に書いてきました。
この記事のポイントをおさらいすると以下の通りです。
- 高次脳機能障害の原因は「外傷性脳損傷」「脳血管障害」など
- 軽度な高次脳機能障害の症状は「記憶障害」「注意力障害」「遂行機能障害」「社会的行動障害」「その他の障害」など
- 高次脳機能障害診断基準は「主要症状等」「検査所見」「除外項目」
- 高次脳機能障害の方が受けられる支援は「障害者手帳」「障害福祉サービス」「介護保険制度による介護サービス」など
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。