家族に介護が必要になった場合、仕事をしながら介護を続けることができるのか?
介護のために仕事を辞めたら生活ができなくなる。
特に介護の経験がない人ならば尚更、不安が募ってしまうことでしょう。
今回は、介護と仕事を両立させるための方法やポイントについて詳しくご紹介していきます。
- 介護と仕事を両立させる方法
- 介護と仕事を両立させるコツ
- 介護と仕事を両立させるための支援
この記事を読んでいただければ介護離職を避け、介護と仕事を両立させるための方法が分かります。
ぜひ、最後までご覧ください。
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介護と仕事は両立できない?
結論から申し上げると、介護と仕事を両立させることは可能です。
なぜなら、日本には様々な介護を支援するための制度が整っているからです。
2015年には、当時の首相である安倍晋三氏が発表した「アベノミクス 新三本の矢」の中で、介護離職ゼロを謳って大々的に政策が展開されました。
例えば、要介護状態になりそうな人が悪化しないように予防したり、要介護状態になった時に安価にサービスを利用できる介護保険制度があります。
このツールの中で企業に対して従業員の介護支援策を詳しく具体的に紹介し「仕事と家庭の両立支援プランナー」制度も創設することにより、従業員が介護離職しないような支援に取り組んでいます。
現在は、介護離職を防ぐという政策の下で様々な支援策が展開されるようになっています。
また、企業側としても人材不足の悪化を防ぐために従業員が仕事と家庭を両立できるような独自の取組に積極的に取り組む所が増えてきています。
このような制度やサービスを活用していくことで、介護と仕事を両立させることが可能な社会になってきています。
また、在宅介護について詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてみてください。
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介護と仕事を両立させるコツ
いくら社会的な取り組みが進んでいるとはいえ、介護と仕事を両立させるためには工夫が必要です。
この章では、介護と仕事を両立させるためのコツについて詳しく具体的にご紹介していきます。
勤務先の仕事と介護の両立支援制度を利用する
介護と仕事を両立させるための一つめのコツは、「勤務先の仕事と介護の両立支援制度を利用する」ことです。
日本には、育児・介護休業法という法律があります。
実はこの法律を元に、企業側が育児や介護が必要な従業員に対し短時間勤務や夜勤の免除などを認める制度を作ることが義務付けられています。
ですから、就業規則によって勤務先ごとに仕事と介護を両立するための支援制度が定められているのです。
例えば、家族の要介護者などのお世話を行う必要がある場合に
- 夜勤を免除する
- 一定期間の休暇を与える
- 労使の相談のもとで休憩時間を延長・変更する
- 残業時間を制限できる
などの仕組みです。
なお、仕事と介護の両立制度を利用したことを理由に解雇や降格・減給などの不利益な取扱いをしてはいけないということも規定されています。
詳しい内容はその企業ごとに異なりますが、どの会社でも就業規則によって仕事と介護の両立支援策が定められています。
まずはお勤めの会社の就業規則を確認してみることをおすすめします。
介護保険サービスを利用する
介護と仕事を両立させるための二つめのコツは、介護保険サービスを利用することです。
介護保険サービスは、2000年から始まった介護保険制度に基づく介護サービスです。
利用者の収入状況に応じて、1~3割の自己負担で安価に介護サービスを利用することができます。
介護保険サービスには、例えば以下のようなサービスがあります。
- 自宅に来てもらい、身体介護や調理・掃除・買物をしてもらう「訪問介護(ホームヘルパー)」
- 日帰りの施設に通って身体介護・機能訓練・余暇活動などのサービスを受ける「通所介護(デイサービス)」
- 日帰りの施設に通って専門的なリハビリを受ける「通所リハビリテーション(デイケア)」
- 一ヶ月当たり30日以内の範囲で宿泊して日常生活全般の介護を受ける「短期入所生活介護(ショートステイ)」
- 電動ベッドや車椅子など日常生活に必要な用具をレンタルする「福祉用具貸与」
- 安価で入浴や排泄に必要な介護用品を購入できる「特定福祉用具販売」
- 工事をして手すりやスロープを付けたり、和式トイレを洋式トイレに変更したりする「住宅改修」
- 施設に入所させて日常生活全般の介護を受ける「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」
これはほんの一例です。
介護保険サービスでは、介護を必要とする人の状態に合わせたサービスを組み合わせて利用します。
介護に困っているのであれば、まずは気軽に市町村役場や介護相談の総合窓口である最寄りの地域包括支援センターに相談してみましょう。
ケアマネージャーや家族に相談する
介護と仕事を両立させるための三つめのコツは、ケアマネージャーや家族に相談することです。
ケアマネージャーとは、地域にある地域包括支援センターや、居宅介護支援事業所という事務所で活躍する介護保険制度の専門家です。
本人や家族などから日常生活上の困りごとを聞き取り、困りごとを解決するために様々な介護保険サービスなどを組み合わせたケアプランを作成します。
このケアプランに基づき、介護保険サービスを利用することができるようになるのです。
また、専門家だけでなく同居する他の家族や近くの兄弟・親戚などと相談することも大切です。
介護保険サービスは万能ではないので、それだけで仕事と介護の両立ができるとは限りません。
また、介護保険サービスは使えば使うほどお金がかかるので費用的な問題も発生します。
介護保険サービスで対応できない部分については、同居する家族や近くに住む親戚などからも協力をしてもらいながらカバーしていく必要があります。
メインの介護者一人だけでは、介護する側も疲弊し仕事と両立することが難しくなってしまいます。
ケアマネージャーと相談して介護サービスを利用しながら、家族間で上手く役割分担をすることで負担を軽減していくことが両立の秘訣です。
また、ケアマネージャーについて詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてみてください。
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介護の知識を身につける
介護と仕事を両立させるための四つめのコツは、介護の知識を身につけることです。
介護に必要な知識や技術を知っておくことで、効率的・効果的に介護できるようになるからです。
例えば、一人で立ち上がることができない人に対して無理やり引っ張って立たそうとすると思わぬ事故で転んでしまったり、怪我をさせてしまったりします。
また、認知症によって被害妄想や徘徊などの症状がある場合、対応を間違ってしまうとかえって相手を混乱させてしまったり、プライドを傷つけてしまったりすることもあります。
その場に応じた適切な対応や人間の身体構造の特徴を利用した身体介護の方法を覚えることができれば、介護する方もされる方も確実に楽になります。
介護が楽になればストレスも溜まりにくくなるメリットもあります。
自分の時間を確保する
介護と仕事を両立させるための五つめのコツは、自分の時間を確保することです。
介護が必要な家族のために頑張ることも大切ですが、そのために自分を犠牲にするようなことがあってはいけません。
介護者自身が心身ともに健康でないと、良質な介護や仕事と介護の両立は実現しないからです。
介護保険サービスの中には一定期間介護施設に宿泊する「短期入所生活介護(ショートステイ)」や、日帰りで施設に通って介護を受ける「通所介護(デイサービス)」などがあります。
このようなサービスを利用し、要介護者と離れて介護者自身が休息を図ることが大切です。
医療の必要性がある方であれば、介護者の休息のために入院する「レスパイト入院」という方法もあります。
介護と仕事を両立させるためには、介護者自身の心身の健康を保つことが非常に重要です。
介護保険サービスを利用したり、他の家族から協力を得たりすることによって自分の時間を確保し休息をとるようにしましょう。
大切なことは、介護をがんばり過ぎないことです。
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介護と仕事を両立させるための支援
介護と仕事を両立するためには、様々な支援を活用していくことが重要です。
この章では、介護と仕事を両立させるために活用できる支援制度についてご紹介します。
介護休暇
介護休暇とは、要介護状態にある家族の介護や身の回りの世話などが必要となった場合に利用できる制度です。
雇用主に申し出ることによって、1年度の間で5日間(対象となる家族が2人いる場合は10日まで)まで仕事を休むことができます。
要介護者の通院や一時的に体調を崩した場合など、「今日だけ休みが欲しい」などという場合に利用できる制度です。
なお、法律では労働者より介護休暇の申し出があった場合は一部例外を除いて休暇を認めなければならないという決まりがあります。
その他、介護休暇の概要は以下の通りです。
【介護休暇の概要】
対象となる家族
配偶者(事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫
※同居か否かは問わない
※扶養の有り無しは問わない
“要介護状態”の定義
負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態。
なお、要介護認定を受けていなくても、介護休業の対象となる場合あり。
“必要な介護”と認められている内容
直接的な介護(排泄・食事・入浴など)、病院への送迎や付き添い、買い物の代行、介護サービス利用の手続きや書類手続きの代行など
介護休業制度
介護休業制度とは、介護などが必要な家族の世話のために仕事を休むことができる制度です。
介護休業制度の場合は、要介護者1人につき通算で93日までです。
この93日間の休みを、最大で3回まで分けて取得することができます。
対象となる家族や要介護状態の定義は上記介護休暇と同様です。
介護休業制度は、なんらかの事情によりまとまった期間休みが必要な場合に取得します。
なお、介護休暇と介護休業制度の違いをまとめると以下のようになります。
【介護休暇と介護休業制度の違い】
介護休暇 | 介護休業制度 | |
取得可能日数 | 同一年度のうち、5日まで (要介護者が2人以上いる場合は10日まで) | 要介護者1人につき、通算で93日まで(3回まで分けて取得することができる) |
申し出の方法 | 必要時に雇用主へ申し出る(詳細は各企業ごとに異なる) | 開始日の2週間前までに雇用主へ申し出る |
休業補償 | 各企業により異なる | 介護休業給付金を受給できる(詳細は下記参照) |
介護休業給付金
介護休業給付金とは、一定の条件を満たした労働者が介護休業制度を利用した場合にはハローワークに申請することで給与の67%に当たる金額の支給を受けられる仕組みです。
受給するための条件は、以下の通りです。
- 介護休業を開始した日より前2年間に被保険者期間が12ヶ月以上あること
- 職場に復帰することを前提として休業すること
申請については、介護休業が修了した後に職場を通じてハローワークへ支給申請を行います。
介護保険
ここでいう介護保険は、介護保険法に基づく公的介護保険サービスです。
介護保険サービスは、全26種類あるサービスの中から必要なサービスを利用しかかった費用の1~3割を自己負担として支払う制度です。
介護保険制度を利用するためには、まずは自治体に申請し介護の必要性を全7段階(「要支援1・2」「要介護1~5」)のレベルを認定してもらいます。
この「要介護(要支援)認定」によって、利用できるサービスや利用上限額、一回あたりの料金が変わってきます。
また、介護保険について詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてみてください。
高齢化が進み、要介護者の増加や介護期間の長期化などがみられるようになりました。また、老老介護という言葉もあるように介護する家族も高齢化しています。そういった現状を踏まえ、介護の負担を減らすために作られた制度が介護保険です。[…]
介護と仕事の両立についての現状
介護と仕事を両立するために、政府は様々な制度を用意しています。
しかし、実際にこれらの制度を利用して両立している方はどれほどいるのでしょうか。
続いては、介護している方の現状を解説していきます。
介護している人の現状
総務省が5年ごとに実施している調査の1つに「就業構造基本調査」があります。
国民の就労などの実態を明らかにし、国の基本的な方針決定の基礎資料となる調査です。
2017年の就業構造基本調査によると、
- 介護を担っている方…627万6000人
- 介護と仕事を両立させている方…340万3000人
でした。
介護を担っている方の半数以上が、介護と仕事を両立させていることが分かります。
しかし、介護や看護を理由として離職する方も少なくありません。
2016年度の同居する主な介護者の男女比率は、男性34%、女性66%です。
また、2016年10月から2017年9月の1年間で、介護・看護離職した方は9万9100人でした。
男女別では、女性の離職・転職者は7万5100人であり、全体の75.8%にのぼっています。
女性の離職・転職が多い背景には、女性の介護や看護を担う割合の高さがあるといえます。
出典:総務省【平成29年就業構造基本調査】
出典:厚生労働省【国民生活基礎調査 介護の状況】
ダブルケアの現状
ダブルケアとは、介護と育児を同時に行うことを指す言葉です。
2016年の内閣府の発表では、ダブルケアに関与する人口は約25万3000人といわれています。
ダブルケアを行う人口は、女性が男性の約2倍です。
考えられる理由としては、晩婚化による出産年齢の高齢化と推測されています。
また核家族化の影響により、親戚との関係の希薄さが顕著になってきているのも事実です。
その結果、育児をしながら介護せざるを得ない状況が増えていると考えられます。
介護離職は避けるべき?
まず結論から申し上げると、介護離職はなるべく避けるべきです。
なぜなら、介護のために仕事を辞めるということは、介護者自身の社会とのつながりや収入を失うことになる可能性があるからです。
様々な支援制度を活用しながらチームで介護に取り組むことで、がんばり過ぎない介護の体制を作ることが大切です。
精神面の問題
仕事があるということは、それだけ社会とのつながりが大きいということです。
仕事を辞めて介護だけに専念するということになると、社会とのつながりは通院先や利用する介護サービスだけになってしまいます。
家にいる要介護者のお世話が中心の生活となり、社会とのつながりが極めて限定的になってしまう恐れがあります。
社会とのつながりが断たれてワンオペ介護となれば体力的・精神的にも疲労が蓄積し、あなた自身の逃げ場が無くなってしまう危険性があります。
いざ介護が終わったときには社会とのつながりが完全に途絶えてしまい、残っているのは孤独感だけ…ということにもなりかねません。
収入面の問題
介護のために仕事を辞めたら、その後の生活費は要介護者が受給している年金や今までの貯金しかなくなってしまい、まとまった収入は期待できなくなります。
まして要介護者が死亡してしまえば年金の支給は止まってしまいます。
介護が必要になる原因の多くは加齢による病気や怪我です。
つまり、介護離職を検討しているあなた自身もそれなりの年齢に達しているはずです。
いざ介護が終結してまた働きたいと思ったとき、そう簡単に介護離職前と同水準の仕事が見つかるでしょうか?
献身的に介護をするということは、確かに素晴らしいことであり尊敬されるべきことです。
しかし、親が亡くなって介護生活が終了した後もあなたの人生は続いていくのです。
介護のために仕事を辞めるのではなく、どうすれば介護と仕事を両立できるか考えることが大切です。
あなた自身の人生のためにも、介護離職は絶対に避けましょう。
また、在宅介護により家族に手当があるのかについて知りたい方は下記の記事も参考にしてみてください。
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介護と仕事の両立まとめ
ここまで介護と仕事を両立させるためのコツや、両立のための支援内容についてご紹介してきました。
- 介護と仕事は両立できる
- 介護と仕事を両立させるコツは「両立支援制度を利用する」「介護保険サービスを利用する」「ケアマネジャーや家族に相談する」「介護の知識を身につける」「自分の時間を確保する」こと
- 介護と仕事を両立させるための支援には「介護休暇」「介護休業制度」「介護給付金」「介護保険」がある
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。